小さな会社の労務講座(採用から退職まで・実務寄り)

区分1 労務の地図★★★

No.02 労働者とは誰か(正社員・パート・登録型・業務委託)

「この人は労働者か」で、使う法律が変わります。業務委託や登録型の人が多い訪問介護では、特に大事な判断です。区分1の締めくくりの単元で、このあとの単元はすべてこの判断を前提にします。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 労働者かどうかは、実態で決まる
  3. 第2章 自社の人を、実際に分けてみる
  4. 確認問題

第0章 前提知識

① 労働者と使用者 :労基法が決めている2つの立場

労働基準法(労基法)9条は、労働者を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と決めています。条文(法律の1つ1つの条)の言葉です。 会社に使われて働き、その対価として賃金をもらう人、ということです。

もう一方の立場が、使用者です。使用者とは、労働者を使う側のことです。労基法10条は、事業主と事業の経営担当者のほか、事業主のために労働者に関することを行う人も、使用者と呼んでいます。 社長だけでなく、シフトを決めたり指示を出したりする管理者も、使用者に当たることがあります。

労働契約法(労契法)2条にも労働者の定義があり、言い回しは少し違いますが、「使用者に使われて働き、賃金を支払われる人」という基本は同じです。 この講座では、法律の言葉どおり「労働者」と書きます。正社員・パート・登録ヘルパーのうち、この意味に当たる人は、みな労働者です。

労働者かどうかは、ほかの区分にもつながります。 たとえば労災保険(仕事中のけがや病気の保険)は、労働者を使う事業が対象です(労災保険法3条。No.05で扱います)。

② 似た言葉との違い

「正社員」「パート」「登録ヘルパー」「業務委託」は、日常ではよく使いますが、法律上の区分ではありません。 労基法と労契法の条文を調べても、「正社員」や「パート」を決める条文は出てきません(e-Govの原文で確認。e-Govは国の法令検索サイトです)。

呼び名 ふつうの意味 労働者か
正社員 期間の定めがなく、所定労働時間(契約や就業規則で決めた働く時間)をフルで働く労働者 労働者
パート(短時間労働者) フルタイムより短い時間で働く労働者 労働者
登録ヘルパー 利用者の依頼に合わせて、勤務日や時間が決まる短時間の働き方 登録型でも、指揮命令を受けて働く実態なら労働者(第1章で判断)
業務委託 仕事の完成や成果に対して報酬を受ける契約の形 名前だけでは決まらない(第1章で判断)

登録ヘルパーに近い働き方を、訪問介護の通達は「非定型的パートタイムヘルパー」と呼んでいます。 通達とは、厚生労働省が労基署に出す、法律の読み方の指示のことです。法律そのものではありませんが、労基署はこれを物差しにして調べます。この通達は、平成16年8月27日の基発第0827001号「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」です。

非定型的パートタイムヘルパーとは、月・週・日の所定労働時間が、一定期間ごとの勤務表で決まる短時間の働き方のことです。通達は、訪問介護労働者のうち数がいちばん多いのがこのタイプだと書いています。

表の「労働者か」の欄は、次の章の判断で決まります。 呼び名は、結論を決めてくれません。

第1章 労働者かどうかは、実態で決まる

① 契約の名前ではなく、働き方の実態で決まる 必ず覚える

厚生労働省の「労働者性判断に係る参考資料集」は、労基法9条の労働者に当たるかどうかを、契約の形式や名称にかかわらず判断する、と書いています。 請負契約や委任契約という名前ではなく、個々の働き方の実態で決めるということです。

契約書の題名を「業務委託契約書」にしても、実態が会社に使われて働いているなら、労働者です。 逆に、雇用の形を取っていなくても、実態が労働者であれば、労基法などが適用されます。

② 実態を見る物差し:基本の2つと、補強の3つ さらっと

資料は、基本の2つの基準で判断し、まとめて「使用従属性」と呼んでいます。 使用従属性とは、他人の指揮のもとで従って働いているという状態のことです。

そのうえで、判断が難しい時に、結論を補強する要素を見ます。 訪問介護の場面に当てはめると、次の表になります。

位置づけ 見る点 労働者に近い 業務委託に近い
基本①の見方 依頼を断れるか 割り当てられた訪問を、病気などの特別な理由がないと断れない 受けるかどうかを、自分で選べる
基本①の見方 仕事のやり方の指示 手順や記録の書き方を、会社が細かく決めている 注文者がするような大まかな指示にとどまる
基本①の見方 時間や場所の拘束 訪問の時間や場所を会社が指定し、管理している 自分で決められる
基本② 報酬の決まり方 時給や日給など、時間を単位にして払う。仕事をしなかった時間の分だけ減る。残業で増える 成果や仕事の出来で金額が変わる
補強 代わりの人 本人が行くことが前提で、別の人に頼めない 自分の判断で、別の人に行ってもらえる
補強 事業者性 高価な機械や器具を自分で用意していない 自分で用意している。同じ仕事の労働者と比べて報酬が著しく高い
補強 専属性 特定の会社の仕事しかできない。時間的な余裕がなく、事実上ほかの仕事ができない ほかの会社の仕事も自由に受けられる

基本の物差しは、上の4行(基本①の3点と基本②)です。 補強の3行は、基本の物差しだけで決めきれない時に、どちらに寄るかを後押しする要素です。

どれか1つで決まるのではなく、全部を合わせて総合的に判断します。

③ 訪問介護の通達の線 必ず覚える

訪問介護については、通達がはっきり書いています。通達は法律ではありませんが、労基署が法律をどう読むかを示す物で、調査ではこの読み方で見られます。

まとめると、登録型でも、指揮命令を受けて働く実態なら労働者です。 事業所(介護保険の指定を受けた単位)に雇われて訪問介護をしているヘルパーは、基本的に労働者です。「登録型だから」「業務委託の契約書だから」という理由で、労基法の外に出すことはできません。

この線を最初に引いておくと、区分2以降の話は、ほとんどがヘルパーにも当てはまると分かります。

第2章 自社の人を、実際に分けてみる

① 労働者になると、何が変わるか さらっと

労働者に当たると、この講座で扱う決まりが、その人にかかってきます。 労働条件の明示(No.04)、労働時間・休日・残業・有給(No.06〜08)、賃金(No.09)、就業規則(No.10)、解雇の制限(No.14)などです。

労働者でなければ、これらはかかりません。 その代わり、判断を間違えて労働者を労働者として扱っていなかった場合は、後からまとめて問題になります。

② 自社の人を3つに分ける手順 さらっと

自社で働いている人、働いてもらっている人を、次の手順で分けてみてください。

  1. 全員を一覧にします(名前ではなく「Aさん」などの記号で構いません)
  2. それぞれについて、契約の名前・働き方・報酬の決まり方を書きます
  3. 第1章の物差しに当てはめて、「労働者」「労働者でない」「迷う」の3つに分けます

分けた結果の例です(架空の例です)。

人 契約の名前 実態 判断
Aさん 雇用契約(正社員ヘルパー) 勤務表どおりに訪問し、記録も会社の様式で書く 労働者
Bさん 雇用契約(登録ヘルパー) 月ごとの勤務表で訪問が決まり、時給で払う 労働者
Cさん 業務委託 割り当てられた訪問を断れず、時間も会社が管理している 労働者の可能性が高い
税理士さん 業務委託 自分の事務所で、自分のやり方で仕事をし、成果に対して報酬 労働者でない

Cさんのように、名前と実態が食い違う人が、いちばん注意が必要です。 そういう人が見つかったら、それが「直す所」の候補です。

③ 迷う人は、専門家に頼む線を引く さらっと

判断が分かれるのは、次のような場合です。

こうした人は、結論が出るまでは労働者として扱っておきます。労働者として扱っておけば、労基法を守る側に倒れるので、あとから問題になりません。 そのうえで、労基署か社労士に確認します。その時は、「契約の名前」「時間や場所の決まり方」「断れるかどうか」「報酬の決まり方」を1枚にまとめて持っていくと、話が早く進みます。

頼み方の例です。AIに整理を手伝ってもらう時は、名前を伏せて渡してください。

次の情報から、労働者に当たるかの判断材料を整理してください。契約の名前は業務委託。訪問は会社が割り当て、断る時は理由が必要。報酬は1回の訪問ごとの単価。厚労省の「労働者性判断に係る参考資料集」の観点で並べてください。

整理はAIに頼んでも、最後の判断は、条文と厚労省の資料に当てて自分で確かめます。

○ よくある勘違い①:業務委託契約書を交わしたので、労働者ではない → 契約の形式や名称にかかわらず、実態で判断される
○ よくある勘違い②:本人が「業務委託でいい」と言っているので問題ない → 判断は本人の希望ではなく、働き方の実態による
○ よくある勘違い③:登録型のヘルパーは、会社に雇われていない → 登録型でも、指揮命令を受けて働く実態なら労働者
○ 関係する単元:No.01(法律の強さの順番)/No.04(契約と通知書)/No.05(社会保険・労災)

労働者かどうかは、契約の名前ではなく実態で決まる。基本の物差しは、指揮監督のもとで働いているかと、報酬が労働の対価かの2つ。登録型でも、指揮命令を受けて働く実態なら労働者。

点検表に書くこと
○ 社労士に聞くことメモ:登録ヘルパーなど、契約が雇用か業務委託かが迷う人(第2章②の3つ分けで「迷う」になった人)と、その働き方の実態
○ 5行のうち、この単元で埋める行はありません。ここで分けた「労働者」の一覧が、No.04・05・12の点検の対象になります

確認問題

問1 ヘルパーのCさんと「業務委託契約書」を交わしました。ただし訪問は会社が割り当て、断るには理由が必要で、時間も会社が管理しています。Cさんの扱いは?

問2 労働者かどうかを判断する時の、基本の2つの基準の組み合わせはどれ?

問3 事業所に雇われて訪問介護をしている登録型のヘルパーについて、正しいのはどれ?

出典:労働基準法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)9条・10条/労働契約法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)2条/労働者災害補償保険法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050)3条/厚生労働省労働基準局「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料集」令和6年10月時点(https://www.mhlw.go.jp/content/001462701.pdf)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」平成16年8月27日基発第0827001号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)。確認日 2026-11-04。