募集は、求人票や求人広告で人を募ることです。 採用選考は、応募してきた人を書類や面接で見て、採るかどうかを決めることです。
この2つの場面で、会社には守る決まりがあります。 募集では「何を書いて伝えるか」、採用選考では「何を聞いてよいか」が中心です。
採用から入社までに出てくる書類は、似た名前が多く、混ざりやすいです。 いつ使う書類か、どの法律のどの条文(法律の1つ1つの条)に根拠があるかで分けておきます。
| 書類 | いつ使うか | 根拠の法律 |
|---|---|---|
| 求人票・募集広告 | 募集の時 | 職業安定法(職安法) |
| 労働条件通知書 | 労働契約を結ぶ時 | 労働基準法(労基法)15条 |
| 雇用契約書 | 契約の合意を書面で残す時 | 労働契約法(労契法)4条2項(できる限り書面で確認する) |
このうち労働条件通知書と雇用契約書は、次のNo.04で扱います。 この単元で大事なのは、求人票に書いた内容と、あとで渡す通知書の内容が、そろっていることです。食い違うと、「求人票と話が違う」という揉め事の元になります。
職安法5条の3は、募集や求人の申込みの時に、業務の内容と労働条件を明示することを求めています。 明示する事項は、職業安定法施行規則(職安則。職安法の細かい部分を決める、厚生労働省の命令)4条の2第3項に並んでいます。訪問介護の求人で書く時の例を並べます。金額や日付は、自社の実際の内容を入れてください。
| 明示する事項 | 訪問介護の書き方の例 |
|---|---|
| 業務の内容(変更の範囲を含む) | 訪問介護(身体介護・生活援助)。変更の範囲:サービス提供責任者の業務を含む、会社の訪問介護事業の業務 |
| 契約期間 | 期間の定めなし/あり(○年○月○日〜○年○月○日) |
| 試用期間 | あり(○か月)/なし |
| 有期契約の更新基準(上限を含む) | 更新あり(契約期間満了時の業務量などで判断)。更新上限:通算○年 |
| 就業場所(変更の範囲を含む) | 雇入れ直後:本社と利用者宅。変更の範囲:会社が運営する事業所と、その訪問先 |
| 始業・終業の時刻、時間外労働の有無、休憩、休日 | 勤務表による(詳しくはNo.04)/時間外労働:あり・なし |
| 賃金の額 | 時給○円〜○円(具体的な額を入れる) |
| 保険の適用 | 健康保険・厚生年金・労災保険・雇用保険 |
| 募集する者の氏名または名称 | 会社名 |
| 受動喫煙を防止する措置 | 職場の中の取り扱いを書く |
この表のほかに、派遣労働者として雇う場合はその旨を書く決まりがありますが、この講座の対象外です。
明示は、書面が原則です。 応募者が希望すれば、FAXや電子メールでも構いません。
2024年4月1日に、求人で明示する事項が3つ増えました。 厚生労働省のリーフレットで確かめた内容です。
「変更の範囲」とは、雇い入れた直後だけでなく、将来の配置転換なども含めて、その契約の期間中に変わりうる範囲のことです。 たとえば「雇入れ直後は訪問介護、変更の範囲は会社の訪問介護事業の業務全般」と書きます。リーフレットにも、「雇入れ直後」と「変更の範囲」を分けて書く記載例があります。
この3つは、労基法に基づく契約時の明示事項と同じ改正で増えました(契約を結ぶ時の通知書の話で、No.04で扱います)。
求人票に書いた内容を、面接や話し合いの中で変えることがあります。 そういう時は、労働契約を結ぶ前に、変更する内容を応募者に明示します(職安則4条の2第1項・2項)。
たとえば求人票で「時給○円」と書いていたのに、経験に応じて額を変えることにしたなら、契約を結ぶ前にその額を伝えます。 口頭で済ませたり、契約の後で伝えたりするのは、決まりに合いません。
もう1つ、明示した内容の記録は、募集が終わる日(または契約を結ぶ日)まで保存します。 求人票の控えは、取っておくようにしてください。
厚生労働省は、公正な採用選考の基本を2つ挙げています。
ここでいう適性・能力とは、「その仕事を遂行できるかどうか」です。 訪問介護なら、必要な資格、利用者さんへの対応、勤務できる曜日や時間などが、これに当たります。
適性・能力と関係のない事項は、採否の決め手にしないだけでなく、そもそも把握しないようにすることが大事だとされています。 採否に使わないつもりでも、知ってしまうと、結果として採否に影響し、就職差別につながるおそれがあるためです。
厚生労働省は、就職差別につながるおそれがあるものとして、次の3つのグループを挙げています。 応募用紙に書かせる、面接で聞く、作文の題材にするなどの方法で把握することも、含まれます。
○ 本人に責任のない事項:本籍・出生地、家族(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産)、住宅の状況(間取りなど)、生活環境・家庭環境
○ 本来自由であるべき事項(思想・信条):宗教、支持政党、人生観・生活信条、尊敬する人物、思想、労働組合・社会運動、購読新聞・雑誌・愛読書
○ 採用選考の方法:身元調査、適性・能力に関係ない事項を含む応募書類、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断
3つ目の「健康診断」は、入社が決まった後の健康診断とは別の話です。 入社の時に法律で行う健康診断は、No.05・No.11で扱います。
面接は、あらかじめ質問項目と評価基準を決めておき、適性・能力と関係のない事項を尋ねないようにする、と厚生労働省は勧めています。 その場の流れで聞いた一言が、問題になることがあるからです。
条文で決まっている点も2つあります。
「年齢不問」の求人にしなければならない場合と、年齢を条件にしてよい例外がありますが、例外は省令で決められています。 年齢や性別を条件にしたい時は、分かるまでは、応募の条件にしません。そのうえで、労基署か労働局(都道府県ごとにある厚生労働省の出先機関)、社労士に確認してください。
訪問介護の面接でよくある質問を、言い換えてみます。 考え方は、聞きたいのは、仕事ができるかどうかだけです。
| 避けたい聞き方 | 仕事に必要なことに絞った聞き方 |
|---|---|
| 「ご家族に介護が必要な方はいますか」 | 「週○日、夕方の勤務に入れますか」 |
| 「結婚の予定はありますか」 | 「希望する働き方(曜日・時間・期間)を教えてください」 |
| 「ご自宅はどんな間取りですか」 | 「訪問先への移動に使う手段(自転車・バイク・車)はありますか」 |
| 「支持している政党はありますか」 | 聞かない |
| 「実家はどちらですか」 | 「勤務できる地域はどこですか」 |
右側の質問は、業務に必要な範囲に絞っています。 たとえば移動手段は、訪問の仕事で必要になるので、聞く理由を説明できます。「その質問は、仕事のどの部分に必要か」を、自分の言葉で説明できるかが目安です。
資格については、介護福祉士や初任者研修などの資格が仕事に必要なら、確認して構いません。 応募者に資格証の提示を求めるのも、仕事に必要な事項の確認です。
○ よくある勘違い①:応募者が自分から話したことなら、何を聞いても問題ない → 厚労省は、把握しないようにすることが重要としている。聞き出すのは避ける
○ よくある勘違い②:求人票は募集のための広告なので、後で条件を変えても構わない → 変更する時は、契約の前に明示する
○ よくある勘違い③:「現住所の略図」を出させるのは便利なので問題ない → 生活環境の把握や身元調査につながる可能性があるとされている
○ 関係する単元:No.04(通知書と契約)/No.05(入社の手続き)/No.11(ハラスメント防止)
求人票には、業務・契約期間・更新基準・就業場所・賃金・保険などを書き、変更の範囲と更新上限は2024年4月から必須。面接では、仕事ができるかどうかだけを聞く。家族・住まい・思想は聞かない。
点検表に書くこと
○ 労働条件通知書の行:求人票に書いた「変更の範囲」と更新上限が、通知書と同じ内容か(求人票の控えを見比べる)
○ 社労士に聞くことメモ:面接の質問項目を決めてあるか。年齢・性別を条件にした求人がないか
問1 2024年4月から、求人で明示する事項に加わったものは?
問2 面接で応募者に、ご家族の職業や収入を尋ねたいと思いました。適切な対応は?
問3 求人票に書いた賃金の額を、面接のやり取りで変更することにしました。いつまでに応募者に明示するべきですか?
出典:職業安定法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141)5条の3/職業安定法施行規則(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40002000012)4条の2/男女雇用機会均等法(https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113)5条/労働施策総合推進法(https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132)9条/労働契約法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)4条2項/厚生労働省「公正な採用選考の基本」(https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm)/厚生労働省リーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001298245.pdf)と職業紹介事業者向け(https://www.mhlw.go.jp/content/001114111.pdf)/有期契約労働者の無期転換サイト(https://muki.mhlw.go.jp/rule.html)。確認日 2026-11-04。