仕事が終わる形には、3つの種類があります。
| 形 | 誰が言い出すか | 例 |
|---|---|---|
| 辞職 | 労働者が一方的に | 「来月末で辞めます」と退職届を出す |
| 合意退職 | 双方が話し合って | 会社が退職を勧め、本人が応じる |
| 解雇 | 会社が一方的に | 「明日から来なくていい」と告げる |
このほかに、有期契約(期間を決めた契約)の期間が終わって、更新しない場合があります。更新しない場合の決まりは、この講座では深く扱いません。契約の更新や無期転換の基本はNo.04で触れています。
労働契約法(労契法)は、労働契約の基本ルールを定めた法律です。 解雇について、労基法とは別の角度から、会社に高い壁を課しています。
つまり、予告手当を払えば解雇できる、というものではありません。 手続きを守っても、理由が足りなければ、解雇は無効になります。この2つは別々の関門として覚えてください。
期間を決めていない契約(無期の契約)なら、労働者は、いつでも辞めると伝えられます。 民法(国民の暮らし全般の基本ルールを定めた法律)627条1項は、申し入れの日から2週間を過ぎれば、契約が終わると定めています。
たとえば、正社員のヘルパーが「今月末で辞めます」と今月10日に伝えたとします。 民法の原則では、10日から2週間後に契約は終わります。
ここで気になるのは、就業規則(職場のルールを書いた規則。No.10)に「退職は1か月前までに申し出ること」と書いてある場合です。 就業規則の定めが民法より長い場合に、どこまで有効かは、争いのある分野です。分かるまでの安全な扱いは、本人が2週間で辞めると言った時は、2週間で辞める前提で引継ぎを組むことです。そのうえで、就業規則の定めをどこまで求められるかを、社労士に確認してください。
実務上の筋は、次のとおりです。
有期契約(たとえば1年契約)の途中で辞めるには、「やむを得ない事由」が必要です(民法628条)。 会社側が途中で解雇する場合も、「やむを得ない事由」が必要です(労契法17条)。
どちらも、無期の契約より厳しい扱いです。 登録ヘルパーの契約形態を確認し、期間が決まっているかどうかを、通知書で確かめておくのが出発点です(No.04)。
労契法16条は、次の解雇は無効と定めています。
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(労契法16条)。条文には、このように書かれています。
条文の言葉だけでは、中身がつかめないと思います。 この講座では、「解雇の理由が、第三者(裁判官)に見せて、納得してもらえる物か」を基準にしてください。 たとえば、「態度が悪い」「なんとなく合わない」だけでは、通りません。具体的にいつ・どんな行為があり、会社はどう指導し、それでも直らなかったのか、という記録が要ります。
どこまで記録があれば足りるかは、事案によって違います。この判断は、社労士や弁護士に相談する線です(No.15)。
解雇をする時は、労基法20条の手続きを守ります。
たとえば、20日前に予告するなら、10日分の平均賃金を払います。
例外は2つです。どちらも、労基署(労働基準監督署)の署長の認定が要ります。
認定なしに「即日解雇」はできません。
労基法21条は、次の人には予告が要らないとしています。ただし、それぞれの所定の期間(契約で定めた期間)を超えると、予告が必要になります。
| 人 | 予告が要らない期間 |
|---|---|
| 日々雇い入れる人 | 1か月を超えるまで |
| 2か月以内の期間を定めた人 | 所定の期間を超えるまで |
| 季節的な業務で4か月以内の人 | 所定の期間を超えるまで |
| 試用期間中の人 | 14日を超えるまで |
試用期間中でも、14日を超えて使えば予告が要ります。 「試用期間だから、いつでも辞めさせられる」は誤りです。
平均賃金は、解雇の日(算定すべき事由の発生した日)の前3か月に支払った賃金の総額を、その期間の総日数(暦の日数)で割ります(労基法12条)。 計算の例は、次のとおりです(金額は説明のための架空の数字です)。
直前3か月の賃金総額 90万円
その期間の総日数 92日
平均賃金の1日分 90万円 ÷ 92日 = 約9,783円
時給の人・日給の人は、最低保障の計算があります(労基法12条1項。賃金の総額を、期間中に働いた日数で割った額の60%を下回れない)。 訪問介護の登録ヘルパーのように、働く日数が少ない人は、この最低保障が効く場合があります。計算は社労士に任せるのが確実です。
労基法19条は、次の期間と、その後30日間は、解雇できないと定めています。
例外は、打切補償を払う場合と、天災で事業を続けられなくなった場合(認定が要る)です。 介護の仕事では、腰痛などの業務上のけがが起きやすいので、この決まりは身近です。
19条・20条の違反は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(労基法119条)。 2025年6月1日の刑法の改正で、「懲役」が「拘禁刑」に変わりました。拘禁刑は、刑務所などに収容する刑で、以前の懲役と禁錮を1つにしたものです。古い資料で「懲役」とあるのは、この改正前の言葉です。
ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。条文で定まっているのは第2章の部分で、次の順番は実務の進め方です。
① 理由を言葉にする 具体的な事実(日時・内容)を書き出す
② 記録を集める 注意・指導の記録、本人の言い分、周りへの影響
③ 改善の機会を与える 書面で注意し、期限を決めて見る
④ 他の手を検討する 配置の変更・労働時間の調整・契約内容の見直し
⑤ 専門家に相談する 社労士か弁護士に、この記録で足りるか確認する
⑥ それでも解雇なら 30日前の予告か予告手当、就業規則の根拠を確認
⑦ 解雇理由の証明書 本人が請求したら、遅滞なく渡す
労基法89条は、退職(解雇の事由を含む)を、就業規則に必ず書く事項としています。 解雇の事由が就業規則に書かれていない会社は、まず就業規則を整える必要があります(No.10)。
会社から退職を勧めて、本人が納得して退職する形(合意退職)は、法律上は可能です。 ただし、本人が納得していないのに、強く迫ったり、辞めると言うまで話を続けたりすると、問題になります。 分かるまでの安全な扱いは、1回の面談で答えを迫らず、本人が考える時間を取り、断られたらそれ以上は勧めないことです。実際に勧める前に、弁護士か社労士に相談してください。
労基法22条により、退職した人から請求があれば、遅滞なく(すぐに)証明書を渡します。 書く事項は、使用期間・業務の種類・地位・賃金・退職の事由(解雇ならその理由)です。
解雇を予告された人は、予告された日から退職日までの間でも、解雇の理由の証明書を請求できます。 書くのは、本人が請求した事項だけです。秘密の記号を付けてもいけません。
退職した人から請求があれば、7日以内に賃金を払い、積立金・保証金・貯蓄金など、本人の権利に属する金品を返します(労基法23条1項)。 賃金や金品について争いがある場合でも、争いのない部分は、同じ7日以内に払います(同条2項)。
| 手続き | 期限 | 出す先 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金の資格喪失届 | 事実発生から5日以内(資格を失う日は退職日の翌日) | 年金事務所 | 日本年金機構 |
| 雇用保険の資格喪失届 | 被保険者でなくなった日の翌日から10日以内(離職の場合は離職証明書を添える) | ハローワーク | 雇用保険法施行規則7条 |
| 退職証明書・解雇理由証明書 | 請求があれば遅滞なく | 本人 | 労基法22条 |
| 賃金・預り金品の返還 | 請求から7日以内 | 本人 | 労基法23条 |
保存の起算日(数え始める日。名簿は退職の日から)は、No.13の表で確かめてください。
○ よくある勘違い 「予告手当を払えば、どんな理由でも解雇できる」→ 手続きを守っても、理由が足りなければ無効です(労契法16条)
○ よくある勘違い 「試用期間中は、いつでも辞めさせられる」→ 14日を超えて使えば、解雇予告が必要です(労基法21条)
○ よくある勘違い 「即日解雇は、手続き上できない」→ 30日分以上の平均賃金を払えば、手続きは即日でも足ります。ただし理由が必要な点は変わりません
解雇には2つの関門がある。理由が合理的で相当なこと(労契法16条)と、30日前の予告か予告手当(労基法20条)。辞めた後は、保険の喪失届の期限(5日と10日)と、請求があれば証明書と賃金を7日以内に返す。
点検表に書くこと
「社会保険」の行と「就業規則」の行に書きます。
・社会保険の行:退職した労働者の資格喪失届の期限(健康保険・厚生年金は5日以内、雇用保険は10日以内)を守れているか
・就業規則の行:退職(解雇の事由を含む)が書いてあるか。解雇の事由が無ければ、まず整える
問1 社員Bさんの勤務態度が悪いので、30日分の平均賃金を払って、明日付けで解雇することにしました。会社の考え方として正しいのは?
問2 労災で療養中のヘルパーを、休んでいる期間中に解雇できるか。正しいのは?
問3 退職した人から「賃金を払ってほしい」と請求がありました。会社がやるべきことは?
出典:e-Gov(国が法令の原文を公開しているサイト) 労契法16・17条(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)/労基法12・19〜23・89・119・120条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/民法627・628条(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)/雇用保険法施行規則7条(https://laws.e-gov.go.jp/law/350M50002000003)/日本年金機構 資格喪失届(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150407-02.html)。確認日 2026-11-04。