書類を残す義務には、期間と、数え始める日(起算日)があります。 期間だけ覚えても、起算日を間違えると、早く捨ててしまうことになります。
たとえば3年の書類を、退職の日から数える物と、最後に書いた日から数える物があります。 まず2つをセットで覚えてください。
労働基準法(労基法)109条の本則(法律の本来の決まり)は、5年保存です。 ところが附則(法律の末尾に付く補足の決まり)143条1項が、「当分の間」(いつまでとは決めず、しばらくの間)は3年にすると定めています。そのため、実際の義務は現在3年です。
古いサイトや資料に「3年」と書かれているのは、この当分の間の措置が理由です。 一方で、年次有給休暇管理簿は、与えた期間中と満了後5年が本則で、経過措置(改正に伴う移行期間の特例)で当分の間は3年です(労基則附則71条)。労基則は、労基法の細かい決まりを厚生労働省が定めた省令です。
この当分の間がいつまで続くかは、法律の改正しだいです。 実務では、「迷う書類は5年残す」と決めておくと、改正があっても困りません。置き場所が増えるだけで、リスクはありません。
つまり、ここでは次のように覚えます。
賃金の時効が3年ということは、3年前までの未払い賃金は、請求される可能性があります。 その時に反論できる証拠になるのが、賃金台帳・出勤簿です。保存は、自分を守るためでもあります。
次の5つの書類は、義務の期間がどれも3年(本則5年)です。違うのは、数え始める日です(根拠は労基法109条と労基則56条)。
労基法の5つの書類の起算日
| 書類 | 数え始める日(起算日) |
|---|---|
| 労働者名簿 | 労働者の死亡・退職・解雇の日 |
| 賃金台帳 | 最後に記入した日 |
| 雇入れ・退職に関する書類 | 労働者の退職・死亡の日 |
| 災害補償に関する書類 | 補償を終わった日 |
| 賃金その他の重要書類 | その完結の日 |
次の3つは、別の決まりで期間が決まっています。
ほかの3つの書類
| 書類 | 義務の期間 | 数え始める日 |
|---|---|---|
| 出勤簿・タイムカードなど労働時間の記録 | 3年 | 書類ごとに最後の記載がされた日 |
| 年次有給休暇管理簿 | 与えた期間中と満了後3年(本則5年) | その年休を与えた期間の満了後 |
| 健康診断個人票 | 5年 | 法律に定めなし(下の説明) |
根拠は、労働時間の記録がガイドライン(厚生労働省が示す指針。No.12)、年次有給休暇管理簿が労基則24条の7と附則71条、健康診断個人票が安衛則51条です。安衛則は、労働安全衛生規則の略で、労働安全衛生法(安衛法)の細かい決まりを厚生労働省が定めた省令です。
健康診断個人票は、安衛則51条に「5年間保存」とあるだけで、数え始める日は書かれていません。 分かるまでの安全な扱いは、個人票を作成した日から5年残すことです。
賃金台帳と「その他の重要書類」には、例外があります。 その記録に係る賃金の支払期日が、上の起算日より遅い場合は、その支払期日から数えます(労基則56条2項)。
訪問介護の通達(厚生労働省が労基署に出した指示)も、同じことを書いています。 労働者名簿は労働者の退職等の日から、賃金台帳は最後の記入をした日から、それぞれ3年です。
ガイドラインの説明では、「その他労働関係に関する重要な書類」に当たる物として、次を挙げています。
訪問介護で考えると、ヘルパーが提出する業務報告書や、訪問記録の時刻欄も、労働時間の把握に使っているなら、ここに入ると考えて保存するのが安全です。
労使協定(会社と労働者の過半数の代表などが書面で結ぶ約束。36協定など)・就業規則・労働条件通知書の控えには、労基則56条の一覧に載っているような、起算日の決まりがありません。 労基法109条の「その他労働関係に関する重要な書類」に当たるかどうか、という考え方になります。
ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。
厚生労働省のよくある質問は、労務関係の書類を、パソコンで作成して保存してもよいとしています。 ただし次の4つの条件を満たす必要があります。
賃金台帳についての同様の質問でも、「労働基準監督官の臨検の際に、直ちに必要事項を明らかにし、提出できる」ことが条件とされています。
「すぐ出せる」ことが、いちばん外せない条件です。 データの置き場所が分からない、パスワードを担当者しか知らない、という状態は、システムで保存していても条件を満たさないおそれがあります。
| 方式 | 向く会社 | 注意する所 |
|---|---|---|
| 紙のみ | 人数が少なく、書く量が少ない会社 | 鍵のかかる場所に置く。濡れ・紛失に備えて写しを取る |
| 表計算ソフト(Excelなど) | 10人前後で、自分で管理できる会社 | 上書き・消去に備えて、毎月日付を付けて別名で保存する。印刷して出せる形にしておく |
| 勤怠・給与のシステム | 人数が増えた会社 | 項目が上の表を満たすか確認する。誰が出力できるかを決めておく |
選ぶ基準は、4つの条件です。 10人弱の会社は、表計算ソフトで作り、毎月印刷して綴じる形でも、条件を満たせます。システムに替えるのは、手作業が苦しくなってからで構いません。
個人情報が入る書類なので、クラウドに置く場合は、誰が見られるかの設定を最初に確認してください。
入社の日には、次のことをします。詳しい中身は、各単元に任せます。
| やること | 期限 | 単元 |
|---|---|---|
| 労働条件を書面で渡し、通知書の控えを保存する | 契約の時 | No.04 |
| 労働者名簿を作る(氏名・生年月日・履歴・性別・住所・雇入日) | 入社の時 | No.12 |
| 健康保険・厚生年金の資格取得届を出し、控えを保存する | 事実の発生から5日以内 | No.05 |
| 雇用保険の資格取得届を出し、控えを保存する | 雇った日の属する月の翌月10日まで | No.05 |
| 雇入れ時の健康診断を受けさせ、個人票を作る(5年保存) | 雇い入れる時 | No.11 |
| 年次有給休暇の基準日を確認し、管理簿の起点を決める | 6か月後 | No.08 |
| 賃金台帳に1枚起こし、最初の給与から記入する | 賃金を払うたび | No.12 |
雇用保険の取得届の期限は、雇用保険法施行規則6条(e-Gov=国が法令の原文を公開しているサイト)の原文に、「事実のあつた日の属する月の翌月十日まで」とあります。 社会保険(健康保険・厚生年金)の5日以内は、日本年金機構の案内に基づきます。
毎月の流れを、手順にしておきます。
① 勤怠を集める 訪問記録・業務報告書・事務所の出退勤を回収
② 労働時間を確定 介護の記録と突き合わせ、ずれを補正し、移動などを足す
③ 割増の確認 時間外・休日・深夜の時間数を出す(No.07)
④ 賃金を計算して支払う 控除も確認(No.09)
⑤ 賃金台帳に記入 支払ったその日のうちに、遅くとも近い日に(労基法108条)
⑥ 出勤簿を締める 日付を入れて、印刷して綴じる
⑦ 年休の確認 付与・消化を管理簿に記入。取得が進んでいない人がいないか見る(No.08)
| やること | 期限 | 単元 |
|---|---|---|
| 退職の年月日と事由を労働者名簿に書き込む(解雇なら理由も) | 遅滞なく(すぐに) | No.12 |
| 最後の賃金を賃金台帳に記入し、最終記入日を残す | 払う都度 | No.12 |
| 請求があれば退職証明書を出し、控えを保存する | 遅滞なく(すぐに) | No.14 |
| 請求があれば賃金と預り金品を返し、控えを保存する | 請求から7日以内(労基法23条) | No.14 |
| 健康保険・厚生年金の資格喪失届を出し、控えを保存する | 事実の発生から5日以内(資格を失う日は退職日の翌日) | No.14 |
| 雇用保険の資格喪失届を出す(離職証明書が必要なら付ける) | 被保険者でなくなった日の翌日から10日以内 | No.14 |
| 保存の起算日(名簿は退職の日)をメモする | 退職の日 | No.13(この単元) |
雇用保険の喪失届の期限は、雇用保険法施行規則7条の原文に、「事実のあつた日の翌日から起算して十日以内」とあります。離職の場合は、離職証明書などを添えます。
数え始めの日の例(日付は説明用です)
3月31日に退職した労働者の場合です。
帳簿は、一度作っても、更新が止まると意味がなくなります。 更新を忘れない仕組みとして、日課・月課・年課に分ける例を示します。ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。
日課(所要5分)
月課(締めの日の前後に1〜2時間)
年課(年に1回、30分)
毎月1枚、次の5つを見ます。
労基署の調査(臨検監督。事業場に立ち入って帳簿などを調べること)は、原則として予告なく来ます(厚生労働省のQ&A)。 権限としては、帳簿や書類の提出を求められます(労基法101条)。
出す書類は調査ごとに違うため、分かるまでの安全な扱いとして、法律が作って備えるよう定めている書類を、全部ひとまとめにしておきます。
「調査の箱」の中身の例です。
| ✓ | 書類 | 参照 |
|---|---|---|
| ☐ | 労働者名簿 | 第1章 |
| ☐ | 賃金台帳 | 第2章 |
| ☐ | 出勤簿・タイムカード・業務報告書 | No.12 第3章 |
| ☐ | 年次有給休暇管理簿 | No.08 |
| ☐ | 就業規則(届出の控えと、周知の方法が分かる物) | No.10 |
| ☐ | 36協定(届出の控え) | No.07 |
| ☐ | 労働条件通知書・雇用契約書の控え | No.04 |
| ☐ | 健康診断個人票 | No.11 |
箱は、物理的なバインダー1冊か、フォルダ1つにします。 「どこにあるか分からない」が、いちばん時間を使う原因です。
調査の進み方と、来た時の対応は、No.15で扱います。
○ よくある勘違い 「3年を過ぎたら、いつでも捨てていい」→ 起算日は書類ごとに違います。名簿は退職の日、賃金台帳は最後の記入日から数えます
○ よくある勘違い 「データで保存すれば、紙は要らない」→ 4つの条件(表示・印字、すぐ出せる、誤って消えない、長期保存)を満たす必要があります
○ よくある勘違い 「労基法に5年と書いてあるから5年」→ 附則143条で当分の間3年。ただし本則に戻る可能性があるため、迷ったら5年残すのが安全です
○ 関係する単元:No.05(入社の手続き)/No.08(年休管理簿)/No.11(健診個人票)/No.12(三帳簿の中身)/No.14(退職の手続き)/No.15(調査の対応)
義務の保存期間は3年(当分の間)。名簿は退職の日から、賃金台帳は最後の記入日から数える。データ保存は「すぐ出せる・誤って消えない」が条件。毎月の締めを7手順で回し、調査の箱を先に作る。
点検表に書くこと
「法定三帳簿」の行と、「社労士に聞くことメモ」の欄に書きます。
・三帳簿の行:帳簿ごとの保存年数と数え始める日。置き場所(紙かシステムか)と、調査の時にすぐ出せるか
・メモ欄:雇用保険・社会保険の手続きの控えの保存期間
問1 2025年4月に退職したAさんの労働者名簿は、いつまで保存する義務がありますか?(現在の運用・当分の間の3年で考える)
問2 賃金台帳をパソコンで作って保存することについて、正しいのは?
問3 社員が退職しました。会社が雇用保険の資格喪失届を出す期限は?
出典:e-Gov 労基法109条・附則143条、労基則24条の7・56条・附則71条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 、https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/雇用保険法施行規則6・7条(https://laws.e-gov.go.jp/law/350M50002000003)/安衛則51条(https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032)/厚生労働省「労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが、可能でしょうか。」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_33.html)、「賃金台帳をパソコンで作成して保存したいのですが」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_32.html)/ガイドライン リーフレット(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf)/訪問介護通達(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/厚生労働省「スタートアップ労働条件」臨検監督Q&A(https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/zenpan/q2.html)/日本年金機構 資格取得・喪失届(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150422.html 、https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150407-02.html)。確認日 2026-11-04。