小さな会社の労務講座(採用から退職まで・実務寄り)

区分4 会社のルール★★

No.11 ハラスメント防止と健康管理(健康診断・ストレスチェック)

ハラスメントの防止と、労働者の健康診断・ストレスチェックの単元です。2026年10月1日からは、利用者や家族からの理不尽な言動(カスタマーハラスメント。以下カスハラ)への対策も、全ての会社の義務になりました。訪問介護では毎日起こり得る話なので、カスハラの章に時間をかけます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 カスハラ対策(2026年10月1日から義務)
  3. 第2章 パワハラ・セクハラの防止
  4. 第3章 健康診断とストレスチェック
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 会社が「措置を講じる」とは :やることを決めて、労働者に知らせ、動かすこと

この単元に出てくる法律は、どれも同じ形をしています。 「ハラスメントをしてはいけません」と書くだけでなく、会社に「相談できる体制を作り、起きたら対応し、再発を防ぐ」ことを義務づけています。この義務を、法律の言葉で「雇用管理上必要な措置を講じる」と言います。

つまり、起きないように祈るだけでは足りません。 窓口・ルール・対応の手順を先に決めて、労働者が知っている状態にしておくことが、会社の仕事です。

② ハラスメントの種類と、根拠の法律 さらっと

訪問介護の会社が知っておく種類は、次の4つです。

種類 何のこと 根拠
パワハラ 上司や先輩など、立場の強い人が業務の範囲を超えて就業環境を害する言動 労働施策総合推進法 31条
セクハラ 性的な言動で、不利益を受けたり就業環境が害されたりすること 男女雇用機会均等法(均等法) 11条
妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント 制度の利用や妊娠を理由にした嫌がらせ 均等法・育児介護休業法(詳しくは厚生労働省が示す指針)
カスハラ 利用者・家族・取引先など、顧客等からの理不尽な言動 労働施策総合推進法 33条・34条(2026年10月1日施行)

根拠の欄は、法律の名前と条番号です。法律を番号で分けた1つ1つの決まりを、条文と言います。施行は、法律が実際に動き出すことです。 指針は、法律を実際にどう守るかを、厚生労働省が示した文書です。 労働施策総合推進法は長いので、この講座では「推進法」と呼びます。

パワハラの条番号は、2026年10月1日の改正で30条の2から31条に変わりました。古い本やネットの記事には30条の2と書かれているので、見かけたら読み替えてください。

第1章 カスハラ対策(2026年10月1日から義務)

① 何がカスハラで、何がそうでないか 必ず覚える

厚生労働省の指針は、職場のカスハラを次の3つが全部そろったものとしています。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 業務の性質などに照らして、社会通念上許される範囲を超えていること
  3. 労働者の就業環境が害されること

ここで言う「顧客等」には、サービスの利用者とその家族が入ります。 さらに「職場」は、労働者が仕事をする場所なら、通常の勤務場所でなくても含まれます。指針は、顧客の自宅も例に挙げています。

訪問介護の場合、利用者のお宅で起きたことは、そのまま会社が対策する対象になります。 「他人の家の中で起きたことだから会社は関係ない」とは言えなくなった、ということです。

一方で、全ての苦情がカスハラになるわけではありません。 社会通念上許される範囲で行われた申し入れは、正当な申し入れです。たとえば「訪問の時間を変えてほしい」「ケアのやり方に不満がある」と伝えることは、それだけではカスハラではありません。

判断では、言動の内容と、手段や態様の両方を見ます。 どちらか一方だけが許される範囲を超えていても、カスハラになり得ます。強い苦痛を与える言動なら、1回だけでも当たることがあります。

② 指針が挙げる典型例 さらっと

指針は、許される範囲を超える言動の例を、2つに分けて挙げています(限定列挙ではありません)。

内容が行き過ぎているもの:

手段や態様が行き過ぎているもの:

訪問介護で思い当たる場面を、自分で2つ3つ当てはめてみてください。 たとえば「契約にない家事を、毎回強く要求される」は「契約を著しく超える要求」、「訪問中に体を触られる」は「性的な要求」に当たり得ます。

③ 気をつけたい線引き:認知症や障害による言動 さらっと

ここが介護で一番迷う所です。 指針は、カスハラ対策をする時に、障害者差別解消法の定める「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮」に留意するよう求めています。また、サービスが途絶えると利用者の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることにも、留意するよう書いています。

つまり、「怒鳴られたから、すぐサービスを止める」という対応は、介護では簡単にできません。 一方で、労働者が殴られたり、暴言を浴び続けたりするのを、そのままにしておくこともできません。

厚生労働省のページには、消費者の心理・障害特性・認知症の症状についての啓発資料(リーフレット)が案内されています。研修に使う資料として、あなたも一度開いてみてください。

分かるまでの安全な扱いは、次のとおりです。

④ 会社が講じる措置 必ず覚える

指針が会社に求める措置は、大きく次のとおりです。

措置 中身 10人弱の会社なら
方針の明確化と周知 カスハラには毅然と対応し、労働者を守る、と決めて伝える 1枚の方針文を作り、全員に配る
対処の内容の周知 カスハラの内容と、起きた時の対処をあらかじめ決めて伝える 対応の流れ(下の図)を作って全員に配る
相談窓口 窓口をあらかじめ決めて伝える。微妙なケースや、起きそうな段階でも広く受ける 窓口の担当者を決める。他のハラスメントと兼ねてよい
事後の対応 事実確認・被害者への配慮・再発防止 記録の様式を作る
抑止のための措置 特に悪質なものへの対処の方針を決め、対応できる体制を作る 「警告→契約の見直し→警察」などの線を決めておく
併せて必要な措置 相談者のプライバシーを守る。相談したことで不利益に扱わないと決めて伝える 方針文に書く

不利益な取扱いの禁止は、法律にも書かれています(推進法33条2項)。 相談したことを理由に、解雇その他の不利益な扱いをしてはいけません。

指針は、対処の内容の例も挙げています。訪問介護で使いやすい物を選ぶと、次のようになります。

その場で起きたら
① ヘルパー:危険なら離れる。すぐ管理者に連絡し、対応の指示を仰ぐ
② 管理者:可能な限り一人で対応させない。必要なら代わって対応する
③ 暴行・脅迫など犯罪に当たり得る言動:警察へ通報
あとで
④ 事実を確認して記録する(日時・場所・言動・誰が居たか)
⑤ 被害を受けた人への配慮(担当の変更・複数人での訪問・相談対応)
⑥ 同じことを繰り返す相手への対処(警告・契約の見直し・弁護士へ相談)

指針は、やり取りの録音・録画も例に挙げています。ただし個人情報保護法などを守って行うことが条件です。 分かるまでの安全な扱いは、会社として録音・録画を指示せず、日時・場所・言動・居合わせた人を、ヘルパーからの聞き取りメモで残すことです。録音や録画を運用に入れたい時は、利用者への説明と同意も関わるので、社労士や弁護士に相談してから決めてください。

⑤ 就業規則との関係

指針は、相談したことで不利益に扱わない旨を「就業規則その他の服務規律を定めた文書」に書くことを、措置の例として挙げています。 就業規則の変え方はNo.10で扱います。方針文を作ったら、就業規則にも一文入れておくのが確実です。

第2章 パワハラ・セクハラの防止

① 会社の義務の中身 必ず覚える

パワハラは、優越的な関係を背景に、業務上必要で相当な範囲を超えた言動で、就業環境が害されるものです(推進法31条)。 中小企業にも措置義務があります。

会社がやることは、カスハラとほぼ同じ形です。

セクハラは均等法11条で、同じく措置義務と不利益取扱いの禁止があります。

つまり、3種類(パワハラ・セクハラ・カスハラ)の相談窓口と手順は、1つにまとめて作れます。指針も、窓口を一体で置いてよいと書いています。

② 求職者へのセクハラも対象になった さらっと

2026年10月1日から、就職活動中の人に対する自社の労働者の性的な言動についても、相談体制などの措置が義務になりました(均等法13条・14条)。 面接を担当する人(あなた自身を含む)の言動が対象です。面接での聞き方はNo.03で扱っています。

第3章 健康診断とストレスチェック

① 健康診断 さらっと

安全衛生の決まりは、労働安全衛生法(安衛法)と労働安全衛生規則(安衛則)にあります。安衛則は、安衛法の細かい決まりを厚生労働省が定めた省令です。

種類 いつ 根拠
雇入れ時の健康診断 常時(ふだんから)使う労働者を雇い入れる時 安衛則43条
定期健康診断 1年以内ごとに1回 安衛則44条

雇入れ時は、3か月以内に受けた健診の結果を出してもらえば、同じ項目を省けます。 記録(健康診断個人票)は5年保存です(安衛則51条)。保存の回し方はNo.13で扱います。

登録ヘルパーのようなパートの人も対象になるかは、「常時使用する短時間労働者」に当たるかで決まります。 平成26年の通達(厚生労働省が出した指示)の基準として、労働局の資料に載っているのは、次の2つを両方満たす人です。

4分の3未満でも、おおむね2分の1以上なら、実施が望ましいとされています。 分かるまでの安全な扱いは、週の所定労働時間が通常の労働者の2分の1以上の登録ヘルパーには、健康診断を受けさせることです(4分の3未満でも「実施が望ましい」とされる範囲に入ります)。自社の登録ヘルパーに当てはめる時は、社労士にも確かめてください。

② ストレスチェック さらっと

ストレスチェックは、労働者の心理的な負担を調べる検査です(安衛法66条の10)。 現在、50人未満の事業場は努力義務です。ただし2028年4月1日から、50人未満の事業場も義務になります。この日から施行、つまり法律が実際に動き出します。e-Govは、国が法令の原文を公開しているサイトで、施行日ごとの版で確かめました。

10人弱の会社も、2028年4月までには、実施の体制を決める必要があります。 いまは「やらなくても違反ではないが、2028年に義務になる」と覚えておけば足ります。

○ よくある勘違い 「家の中のことだから、会社は関係ない」→ 指針は顧客の自宅も「職場」に含めています。利用者宅で起きたことも会社の対応の対象です
○ よくある勘違い 「怒鳴られたら、すぐサービスを止めてよい」→ 介護ではサービスの途絶が生命や健康に影響し得るため、指針も留意を求めています。対処は事前に決め、判断に迷う時は専門家へ

利用者・家族からの理不尽な言動(カスハラ)への措置は、2026年10月1日から義務。窓口・方針・対処の流れの3つを先に決めて、全員に伝える。パワハラ・セクハラの窓口とまとめて作ってよい。

点検表に書くこと
「就業規則」の行と、「社労士に聞くことメモ」の欄に書きます。
・就業規則の行:カスハラ・パワハラ・セクハラの方針と、相談したことを理由に不利益に扱わない旨が書いてあるか
・メモ欄:相談窓口の担当者、利用者宅で起きた時の対応の流れ、健康診断を受けさせている登録ヘルパーの範囲

確認問題

問1 利用者のお宅で、ヘルパーが家族から「契約にない家事を毎回強く要求される」と相談してきました。会社の考え方として正しいのは?

問2 カスハラ対策で、会社が必ずやる措置はどれ?

問3 次のうち、正しい記述はどれ?

出典:e-Gov 労働施策総合推進法31〜34・36・37条(https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132)/均等法11・13・14条(https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113)/安衛法66条・66条の10・附則4条、安衛則43・44・51条(https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057 、https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032)/厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html)/健康診断の対象となるパートの基準:静岡労働局の資料(https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/002012121.pdf)。確認日 2026-11-04。