就業規則とは、会社が定める、働く時間・賃金・休暇・退職などの職場のルールを書いた規則のことです。 労働基準法(労基法)が、常時10人以上の労働者を使う事業場(労基法で人数を数える、場所ごとの職場)に、作ることを義務付けています。「常時」は、一時的でなく、ふだんから、という意味です。
法律・就業規則・契約の強さの順番は、No.01で扱いました。ここでは結論だけ繰り返します。
| 何のことか | |
|---|---|
| 労働契約 | 会社と労働者1人ずつの約束(労働条件通知書など。No.04) |
| 就業規則 | 全員に共通のルールをまとめた規則 |
| 労使協定 | 会社と労働者の代表との書面の約束(時間外労働の上限を決める36協定など。No.07) |
労使協定は、就業規則とは別のものです。就業規則に36協定の中身を書いても、36協定の代わりにはなりません。
労働契約法(労契法)は、労働契約についてのルールを定めた法律です。 就業規則が契約の中身になる条件と、規則を変える時の条件は、この法律にあります。この単元で読みます。
労基法89条は、常時10人以上の労働者を使う使用者(労働者を使う側。ここでは会社)に、就業規則を作って労基署(労働基準監督署)に届け出ることを義務付けています。 中身を変えた時も、同じく届け出ます。
あなたの会社が気をつける点は、10人の数え方です。 訪問介護の通達(厚生労働省が労基署に出した指示。平成16年8月27日 基発第0827001号)は、短時間の訪問介護労働者も「常時10人以上」の数に含まれると明記しています。短時間のヘルパーは数えないという誤解が、実際にあるためです。
したがって、正社員が少なくても、登録ヘルパーを足して10人に達していれば、義務があります。 10人弱の会社は、数が行き来します。数えた日付と人数を、記録しておくと安心です。
10人未満の会社には、作成の義務がありません。 ただし、作ってはいけないわけではありません。むしろ、ルールを書面で示しておくことは、労使の食い違いを減らします。
89条は、書く内容を2種類に分けています。
必ず書くもの:
定めをするなら書くもの:
訪問介護なら、たとえば次の点を規則に入れておくと、トラブルが減ります。
ひな形は、厚生労働省の「モデル就業規則」が使えます。最新版は令和7年12月版です。自社のルールと並べて読み、足りない所と違う所を見つけるのが、最初の一歩です。
作成や変更には、次の手順が要ります(90条)。
ここで大事なのは、求められているのが意見を聴くことで、同意を得ることではない点です。 反対の意見が出ても、届出はできます。ただし、反対意見も書面にして付けます。
過半数代表者の選び方は、No.07と同じです(管理監督者でなく、投票や挙手などで選ばれ、会社の意向で決めた人でない)。管理監督者は、労働時間の決まりが適用されない、経営者と一体の立場の人です。 代表者であることを理由にした不利益な扱いも、してはいけません。
作っただけでは足りません。労働者に周知(知らせて、いつでも見られる状態にする)ことも、義務です(106条)。 方法は、省令(厚生労働省が定める法律の細かい決まり)の労基則52条の2が、3つ挙げています。労基則は、労働基準法施行規則の略です。
訪問介護の通達は、事業場に来る機会の少ないヘルパーには、書面を交付する方法が望ましいとしています。 事務所の壁に貼ってあるだけでは、ほとんど来ない登録ヘルパーには周知したことになりません。
周知は、効力にも関わります。 労契法7条は、合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していた場合に、労働契約の内容がその規則のとおりになると定めています。周知していないと、規則を根拠にした扱いが認められなくなるおそれがあります。
違反の罰則は、30万円以下の罰金です(89条・90条・106条の違反、120条)。
就業規則と、個別の契約が食い違う時の決まりがあります。
つまり、規則は最低ラインとして働きます。 個別に有利な条件を決めるのは自由ですが、規則より不利に決めても、その部分は効きません。強さの順番は、No.01の図で確かめてください。
就業規則を変えて、労働者に不利益な変更をする場合を考えます。 労契法9条は、会社が労働者と合意なしに、就業規則を変えて不利益に労働条件を変えることはできないと定めています。合意が基本です(労契法8条も、合意による変更を認めています)。
例外が、労契法10条です。 次の2つを満たす場合は、合意がなくても、変更後の規則が労働契約の内容になります。
合理性を見る事情は、条文(法律を番号で分けた1つ1つの決まり)に挙がっています。
合理的かどうかは、最後は裁判で判断される物差しです。 たとえば、賃金を下げる変更は、不利益が大きいので、必要性を会社が説明できないと通りません。 分かるまでの安全な扱いは、労働者に不利になる変更を、全員から個別の同意を書面でもらえるまで実施しないことです。判断に迷う変更は、実行する前に社労士に相談してください。
実務では、次の順で進めます。
2の個別の合意は、法律が必ず求める手順ではありません。 ただ、合意があれば、10条の「合理性」の争いを避けられます。不利益が大きい変更ほど、合意を取る価値が大きくなります。
○ よくある勘違い:「登録ヘルパーは10人に数えない」→ ×。短時間でも数えます(通達)
○ よくある勘違い:「代表者が反対したら届け出られない」→ ×。意見を聴いて、意見書を付ければ届け出られます
○ よくある勘違い:「規則を事務所に置いてあれば周知した」→ 来所の少ないヘルパーには書面の交付が望ましいとされています
常時10人以上(短時間のヘルパーも数える)なら就業規則を作って届け出る。作る・変える時は過半数代表者の意見を聴き、周知する。不利益変更は、合意が基本で、合意がなければ「周知+合理性」が要る。
点検表に書くこと
「就業規則」の行に、次を書きます。
・作る義務があるか(登録ヘルパーも数えて、常時10人以上か)と、数えた日付・人数
・労基署への届出日、最後に変えた日、周知の方法(登録ヘルパーには書面で渡しているか)
問1 正社員が4人、登録ヘルパーが6人のあなたの会社は、就業規則を作る義務があるか。通達の考え方で正しいのは?
問2 就業規則を作って届け出る時、過半数代表者に意見を聴きました。代表者は反対でした。会社はどうする?
問3 事務所に来る機会が少ない登録ヘルパーに、就業規則を周知する方法として、通達が望ましいとしているのは?
出典:e-Gov(国が法令の原文を公開しているサイト) 労働基準法89条・90条・106条・120条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/労働基準法施行規則6条の2・52条の2(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/e-Gov 労働契約法7条・8条・9条・10条・12条(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号、https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/厚生労働省「モデル就業規則」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html)。確認日 2026-11-04。