労働基準法(労基法)でいう賃金とは、名前が給料・手当・賞与のどれであっても、働いた対価として会社が払うものです。 通達(厚生労働省が労基署に出した指示。法律ではありませんが判断の物差しになります)は、利用者宅に行くための実費の交通費は、事業の必要経費なので、賃金に当たらないとしています。
平均賃金とは、休業手当などの金額を決める時の「1日あたりの賃金」のことです(労基法12条)。法律を番号で分けた1つ1つの決まりを、条文と言います。 原則は、事由が起きた日の直前3か月間に払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦の日数)で割った額です。
時給や日給で働く労働者には、最低保障があります。 賃金の総額を、その期間に実際に働いた日数で割った額の60%です。原則の額とこの額を比べて、高い方が平均賃金になります。
例(数字は説明用)です。直前3か月の賃金が合計36万円、総日数が92日、働いた日数が36日のヘルパーの場合です。
週に数日しか働かない人ほど、最低保障の方が高くなります。登録ヘルパーはこの形が多いはずです。
労基法24条は、賃金の払い方に5つの決まりを置いています。
それぞれに例外があります。
訪問介護で起きやすいのは、「利用者からの預かり金の不足分をヘルパーの賃金から引く」や、「キャンセル料を賃金から引く」ことです。 法令か協定の根拠がない控除は、全額払いの原則に反します。違反は30万円以下の罰金です(120条)。
就業規則(職場のルールを書いた規則。No.10で扱います)で「遅刻したら減給」と定める場合にも、上限があります(91条)。
制裁の定め方はNo.10で扱います。ここでは「無制限には引けない」ことだけ持ち帰ってください。
未払いの賃金を請求できる期間(時効)は、法律の本来の決まり(本則)では5年です(115条)。ただし、附則(法律の末尾に付く補足の決まり)143条で、当分の間は3年とされています。 退職手当は5年です。 分かるまでの安全な扱いは、賃金台帳や出勤簿を5年残すことです(No.13で扱います)。
最低賃金は、都道府県ごとに決まる、時間あたりの下限額です。 2026年10月1日からの埼玉県は、時間額1,196円です(前の額1,141円から55円の引き上げ)。あなたの会社の所在地の額は、厚生労働省の最低賃金一覧で確かめてください。毎年10月ごろに変わります。
比べ方は、通達が示しています。
例(数字は説明用)です。月給22万円で、月の所定労働時間が160時間の人は、220,000円 ÷ 160時間 = 1,375円です。埼玉県の例でいえば、1,196円を上回っています。
ここからは、訪問介護に特有の話です。 No.06のとおり、移動や命じた待機は労働時間です。賃金は、どんな労働時間についても払わなければなりません。
通達は、次のように整理しています。
つまり、介護は時給1,600円で、移動は無給、という形は認められません。 移動時間の単価を介護より低く決めること自体は許されますが、最低賃金の額以上である必要があります。
利用者宅の間の移動が長いほど、会社の負担も増えます。 その分は、単価の設計(介護の時間の単価に含める形にする、など)で調整することになります。設計は、社労士に頼む典型の仕事です。
休業手当は、会社の責任で労働者を休ませた時に、会社が払うお金です。 労基法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(使用者は、会社の代表など、労働者を使う側のことです)の場合は、休業期間中、平均賃金の60%以上を払うよう定めています。
払わないと、30万円以下の罰金です(120条)。 法律の目的は、会社の都合で突然仕事がなくなっても、労働者の生活が急に立ち行かなくならないようにすることです。
訪問介護では、利用者から「今日は来なくていい」と言われることがあります。 通達(平成16年8月27日 基発第0827001号)の考え方を、順に見ます。
払う必要が出てくる条件は、次のとおりです。
最後の「会社の責任と評価される」かどうかが争点です。 通達は、利用者がキャンセルしたこと自体で決まるのではないと言っています。他の利用者宅で働いてもらえる可能性を十分に検討したかなど、代わりの仕事を用意する努力を含めて判断します。会社が最善の努力を尽くしたと認められない場合は、会社の責任があるとされ、休業手当が要ります。
払わなくてよい場合も、通達が書いています。
例(数字は説明用)です。平均賃金が6,000円のヘルパーが、勤務表で決まっていた1日の勤務を、利用者のキャンセルで休むことになったとします。 代わりの仕事を用意しなかったなら、休業手当は、6,000円 × 60% = 3,600円以上です。
1日の仕事のうち、一部だけがキャンセルになることも多いはずです。 通達は、1日の一部だけを会社の責任で休業させた場合も、実際に働いた時間に払う賃金が、その日の平均賃金の60%に満たない時は、その差額を払うよう求めています。
例(数字は説明用)です。平均賃金6,000円(60%は3,600円)のヘルパーが、午前に2件が入っていたのに1件がキャンセルになり、働いた時間の賃金が2,000円だったとします。 3,600円に足りないので、差額の1,600円を払います。
勤務表が決まる前のキャンセルは、通達の前提(勤務表で特定された後)に当たりません。 ただし、どの時点から「特定された」と扱うかは、契約と運用で変わります。勤務表の出し方、キャンセル時の連絡のルールを就業規則や契約に書いておくことが、会社を守ります。 分かるまでの安全な扱いは、勤務表を出した後のキャンセルは休業手当の対象になる前提で動き、代わりの仕事を探した努力を記録に残すことです。書き方は社労士に頼む所です。
○ よくある勘違い:「利用者の都合だから、会社に責任はない」→ ×。代わりの仕事を探す努力を含めて判断されます
○ よくある勘違い:「移動は労働じゃないから、賃金もいらない」→ ×。移動も通算して賃金を払います
○ 最低賃金との比較:実費の交通費は、比べる額に入れません
賃金は、通貨・直接・全額・毎月・期日の5原則。時給は最低賃金以上で、移動時間にも賃金が要る。利用者のキャンセルでも、代わりの仕事を用意しなければ、平均賃金の60%以上の休業手当が要る。
点検表に書くこと
5行のどれにも当たらない回です。「社労士に聞くことメモ」の欄に、次を書きます。
・時給の労働者の賃金が最低賃金以上か。移動時間の単価はいくらか
・利用者のキャンセルで仕事がなくなった時に、代わりの仕事を探す決まりと、休業手当を払う決まりがあるか
問1 勤務表で決まっていた1日の勤務が、利用者のキャンセルでなくなりました。会社は他の利用者宅の仕事を探さず、そのまま休みにしました。必要なことは?
問2 介護の時間は時給1,600円、移動の時間は時給500円(無給ではない)と決めた会社があります。通達の考え方では?
問3 平均賃金が6,000円のヘルパーが、1日の一部だけを会社の責任で休み、働いた時間の賃金が2,000円でした。会社が払う差額は?
出典:e-Gov(国が法令の原文を公開しているサイト) 労働基準法12条・24条・26条・91条・115条・120条・附則143条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号、https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/)/同全国一覧PDF(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001753404.pdf)。確認日 2026-11-04。