時間外労働(残業)には2種類あります。
たとえば所定が1日7時間のヘルパーが8時間働いた場合、最後の1時間は法定内です。 法律が割増賃金を義務にしているのは、法定の上限を超えて働かせた時間です(37条1項。第2章で読みます)。法定内の1時間にどんな賃金を払うかは、会社の就業規則や契約で決めた約束に従います。
残業・休日・深夜は、それぞれ別の割増の対象です。重なれば割増も重なります。
36協定(さぶろくきょうてい)とは、労基法36条に基づく、会社と労働者の代表との書面の約束のことです。労使協定(会社と労働者の代表が書面で結ぶ約束)の1つです。 これを結んで労基署に届け出ると、法定の上限を超えて働かせたり、法定の休日に働かせたりすることが許されます。名前は、条文(法律の1つ1つの条)の番号から来ています。
届け出ていない状態で上限を超えて働かせると、36協定の問題以前に、32条(No.06)の違反です。
協定の当事者は、会社と次のどちらかです。
あなたの会社には組合がなければ、後者です。 過半数代表者には条件があります(労基則6条の2。労基則は、労基法の細かい部分を決める厚生労働省の命令です)。
過半数代表者は、投票・挙手などで選ばれた人で、会社が指名した人ではありません。 会社が「この人でお願い」と指名するのは、条件を満たしません。 また、過半数代表者であることを理由に不利益な扱いをしてはいけません。
分母になる「労働者」には、登録ヘルパーを含めて数えます。社員だけで数えて決めた代表者の協定は、効力が争われかねません。人の範囲はNo.02を見てください。
協定に定めるのは、条文上、次の事項です(36条2項)。
協定は、労基署に届け出て初めて効力が生じます(36条1項)。届出の様式や記入の仕方は、労基署で案内しているので、社労士に頼むのも自然な所です。 結んだあとは、労働者に周知します。掲示・書面の交付などの方法で、作業場の誰もが見られるようにします(106条)。
上限は2段になっています(36条)。
| 時間外 | 備考 | |
|---|---|---|
| 原則(協定に書ける限度) | 月45時間・年360時間 | 特別な事情がなくても結べる範囲 |
| 特別条項つきの場合 | 年720時間以内・月は休日労働と合わせて100時間未満 | 月45時間を超えられるのは年6か月まで |
特別条項とは、通常は予見できない業務量の大幅な増加などで、臨時的に原則の限度を超える必要がある時のために、協定に付ける定めです。
さらに、協定の中身にかかわらず、実際に働かせた時間には絶対の上限があります(36条6項)。
施行(決まりが使われ始めること)は、中小企業で2020年4月1日です。 10人弱の訪問介護の会社で月45時間を超える残業は、実務上はまれです。ただ、時間外と休日労働の合計で数えること、平均で見ることは、知っておくと調査の場面で役立ちます。
災害などで臨時の必要がある場合は、36協定がなくても、行政官庁の許可を受けて延長できます(33条)。 訪問介護の日常業務では使いません。聞かれたら、「例外で、別の手続きがある」と答えられれば足ります。
37条と政令(割増賃金令。国が決める命令)が定める率は次のとおりです。 法定外の時間外は25%以上、休日は35%以上、深夜は25%以上、月60時間超の時間外は50%以上です。
| 場面 | 割増率(通常の賃金に上乗せ) |
|---|---|
| 法定外の時間外労働 | 25%以上 |
| 時間外が1か月60時間を超えた分 | 50%以上 |
| 法定の休日の労働 | 35%以上 |
| 深夜(22時〜5時) | 25%以上 |
「25%以上」とは、通常の賃金の1.25倍以上を払うという意味です。 60時間超の50%は、中小企業にも2023年4月1日から適用されています。
重なる場合の例を2つ挙げます。
重ねて足すのが基本です。
割増の計算の元になる「通常の賃金」には、家族手当・通勤手当などを入れません(37条5項)。 どの手当が外れるかは、厚生労働省令が決めています。名前でなく中身で決まるので、「手当」の名前を付けただけでは外せません。
例として、時給1,300円のヘルパー(数字は説明用)が、法定外の時間外に2時間働いたとします。
月給の人は、月給の額から割増の対象に入る部分を拾い、月の所定労働時間で割って時間あたりの額を出します。 この計算は給与計算ソフトに任せてよい所ですが、「何を基礎に入れるか」を決めるのは会社です。
No.06のとおり、移動時間や命じた待機は労働時間です。 そこで、直接介護と移動と命じた待機を足した時間で、1日8時間・1週40時間を超えたかを数えます。賃金も、通達(厚生労働省が労基署に出す、法律の読み方の指示。平成16年基発第0827001号)は、これらを通算した時間で算定するよう求めています。
たとえば、介護の時間が7時間・移動が1.5時間のヘルパーは、合計8.5時間です。 0.5時間は、法定を超えたので割増の対象になります。介護の時間だけを数えていると、この0.5時間が漏れます。
労基法38条の2は、事業場の外で働き、労働時間を算定しにくい場合は、所定労働時間働いたものとみなす、と定めています。 ただし、訪問介護では、通達が移動時間や報告書の作成を労働時間として把握するよう求めています(No.06)。勤務表と報告書で時間が分かる以上、この制度にそのまま頼れるかは慎重に考える所です。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。分かるまでは、みなしを使わず、移動・待機・報告書も含めて、実際の時間で数えます。そのうえで、労基署か社労士に確認してください。
○ よくある勘違い:「残業代は固定の手当に含めてある」→ 中身が実際の残業時間に見合うかが問題になります。名前だけでは足りません
○ よくある勘違い:「パートに割増はない」→ ×。労働者なら、法定を超えた分に割増が当たります
○ 罰則:割増賃金を払わない場合は、6か月以下の拘禁刑(刑務所に入れる刑)または30万円以下の罰金です(119条)
○ 関係する単元:労働時間はNo.06、賃金の払い方はNo.09、周知の手順はNo.10
上限を超えるには、36協定を結んで届け出る。原則は月45時間・年360時間。超えた分は25%以上、休日は35%以上、深夜は25%以上、月60時間超は50%以上。訪問介護は移動と命じた待機を足して数える。
点検表に書くこと
○ 36協定の行:協定があるか。労基署に届け出ているか。対象期間の期限はいつか。月45時間・年360時間の範囲に収まっているか
○ 36協定の行の続き:過半数代表者を、投票・挙手などで選んでいるか(登録ヘルパーを含めた過半数で数えているか)
問1 36協定を結ぶ時の、労働者の側の相手は誰ですか(組合がない会社)?
問2 時給1,300円のヘルパーが、法定外の時間外に1時間働きました。深夜(22時〜5時)の時間帯ではありません。最低限払う額は?
問3 ヘルパーの1日が、直接介護7時間と移動1.5時間でした。1日の労働時間は?
出典:e-Gov 労働基準法33条・36条・37条・38条の2・106条・119条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/労働基準法施行規則6条の2・20条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/e-Gov「労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令」(https://laws.e-gov.go.jp/law/406CO0000000005)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号、https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/厚生労働省「労働基準法のハンドブック」関連資料(施行日:https://www.mhlw.go.jp/content/001140961.pdf)。確認日 2026-11-04。