この単元で出てくる法律は、労働基準法(労基法)です。会社と労働者の間の最低ラインを決めた法律で、この講座では何度も引きます。「32条」のような番号は、法律の1つ1つの条(条文)のことです。
労基法でいう労働時間は、「働いた」と本人が思う時間ではありません。 会社の指揮のもとにあり、その時間を自由に使えない時間のことです。
この考え方は、第2章の移動時間でそのまま使います。
似た言葉が2つあります。先に分けておきます。
| 何のことか | 決めるのは | |
|---|---|---|
| 所定労働時間 | その会社で「この時間働く」と決めた時間 | 会社(契約・就業規則) |
| 法定労働時間 | 法律が決めた上限(1日8時間・1週40時間) | 労基法32条 |
たとえば所定が1日7時間でも、法律の上限は8時間です。 所定と法定の間の1時間は、法律の上限には触れません。残業代の扱いはNo.07で見ます。
労働者とは、会社の指揮のもとで働き、賃金をもらう人のことです。 登録ヘルパーも、実態として会社の指示で働いているなら、労働者です。誰が労働者に当たるかはNo.02で扱っています。この単元では、登録ヘルパーも労働者として話を進めます。
労基法32条の定めは次のとおりです。
数字は2つだけです。1日8時間・1週40時間。 理由は、労働者の健康と生活を守るためです。違反すると、6か月以下の拘禁刑(刑務所に入れる刑。以前の「懲役」にあたります)または30万円以下の罰金です(119条)。
ただし、この上限を超えて働かせる方法が2つあります。 労使協定(会社と労働者の代表が書面で結ぶ約束。36協定もその1つです)を結ぶ方法はNo.07で、変形労働時間制を使う方法はこの章の③で説明します。
分かるまでは、1週40時間で組みます。 理由は次のとおりです。
小さい事業場には、週44時間まで認める特例があります。 労基則(労働基準法施行規則。労基法の細かい部分を決める、厚生労働省の命令)25条の2は、別表第一の第8号・10号・13号・14号の事業のうち、常時10人未満の労働者を使うものは、1週44時間・1日8時間まで働かせてよいと定めています。「常時」とは、いつも使っている、という意味です。
ここで気をつけたいことが2つあります。
1つ目は、訪問介護がこの対象に入るかです。 13号は「病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業」です。厚生労働省の「訪問介護員のための魅力ある就労環境づくり」という資料には、常時10人未満の訪問介護事業所は44時間と書かれています。ただ、「訪問介護は13号に当たる」と明示した条文や通達は、この講座で当たった資料の中にはありません。
2つ目は、10人の数え方です。 訪問介護の通達は、就業規則の「常時10人以上」の数え方について、短時間の訪問介護労働者も含めると明記しています(No.10で扱います)。 この講座では、44時間の特例の「常時10人未満」でも、登録ヘルパーのような短時間の人を10人に数えます。10人弱の会社は、ここが境目になります。
ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。 44時間の特例は、使えると言い切れる根拠が見つからず、人数の数え方でも外れやすいので、使わずに40時間で組んでおくのが安全です。使いたい時は、そのうえで労基署か社労士に確認します。
訪問介護は、月の前半が忙しく後半は少ない、というように仕事量が変わります。 1か月以内の期間を平均して1週40時間以内に収まれば、特定の日や週に8時間・40時間を超えて働かせられる仕組みが、1か月単位の変形労働時間制です(32条の2)。
使うには次が要ります。
深追いしなくて構いません。ただ、シフト表が毎月違う訪問介護では、これを使っていないのに「今週は45時間働いた」が起きると、そのまま違反になります。使うなら手続きをきちんと踏む、という点だけ持ち帰ってください。
労基法34条の定めです。
休憩は「途中」に与える決まりなので、終業の直前にまとめて取らせることはできません。 一斉に与えるのが原則で、労使協定があれば例外にできます。
訪問介護で気をつけたいのは、利用者宅の合間の空き時間です。 その時間を自由に使えるなら休憩になり得ますし、待機を命じられているなら労働時間です。見分け方は、次の章で扱う「自由に使えるか」です。
労基法35条は、毎週少なくとも1回の休日を与えるよう定めています。 例外は、4週間を通じて4日以上の休日を与える形です。この形にする時は、4週の数え始めの日(起算日)を就業規則などで明らかにします(労基則12条の2)。
休日を与えるというのは、その日を丸ごと働かなくてよい日にすることです。 シフトが月ごとに作られる訪問介護では、次のように確かめます。
ここからが、この単元の中心です。 平成16年8月27日の基発第0827001号「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」という通達があり、訪問介護の時間の扱いをはっきり示しています。通達とは、厚生労働省が労基署に出した指示で、労基署の判断の物差しになります。法律そのものではありませんが、調査ではこれで見られます。
移動時間とは、事業場・集合場所・利用者宅の相互間を移動する時間です。 通達の判断の物差しは、使用者(労働者を使う側。会社や、会社のために指示を出す管理者)が業務に必要な移動を命じ、その時間の自由な利用が労働者に保障されていないなら、労働時間になる、というものです。
具体例として、通達は次を挙げています。
どちらも、通常の移動に要する時間程度なら労働時間と考えられる、とされています。
自社に当てはめます。 ヘルパーがA宅の訪問を終えて、次のB宅へ自転車で15分かけて移動したとします。この15分は、労働時間です。直接介護をしていなくても、数えます。
自宅から最初の利用者宅へ直接向かう時間(直行)や、最後の利用者宅から自宅へ戻る時間(直帰)がどうなるかは、通達の文面では「事業場・集合場所・利用者宅の相互間」とあり、自宅は挙がっていません。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。分かるまでは、直行・直帰の時間も労働時間に数えて賃金を払っておきます(多めに払う側に倒せば、違反にはなりません)。そのうえで、扱いを労基署か社労士に確認してください。
待機時間は、会社が急な需要に備えて事業場などで待機を命じ、自由に使えないなら労働時間です。 「何もしていない」ことは理由になりません。命じられて待っているなら、働いた時間です。
業務報告書などを書く時間も労働時間になる場合があります。 通達の条件は、介護保険制度や社内規定で作成が業務上義務付けられていて、会社の指揮のもとで事業場や利用者宅で書いていることです。
書類や条文にそのまま出てくる言い回しは、自由利用が保障されていないです。 労働時間かどうかは、名前や契約の書き方ではなく、実態で決まります。
研修も、会社が明示的に指示して行うなら労働時間です。 明示がなくても、出ないと就業規則上の制裁がある場合や、出ないと本人の業務に具体的に支障が出る場合など、実質的に出席が強制されているなら、労働時間に当たります。
○ よくある勘違い:「直接介護をした時間だけが労働時間」→ ×。移動・命じた待機・義務付けた報告書作成も労働時間です
○ よくある勘違い:「登録ヘルパーはパートだから時間の決まりは別」→ ×。労働者なら、労基法の労働時間の決まりがそのまま当たります(No.02)
○ 関係する単元:賃金の払い方はNo.09、割増はNo.07、人数の数え方はNo.10
労働時間は、ヘルパーが書く業務報告書で把握している会社も多いと思います。 通達は、その場合には、労働時間の実態を正しく記録して報告するよう、会社が本人に十分説明するよう求めています。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)も、始業と終業の時刻を確認して記録する方法を示しています。 記録そのものの書式や保存は、No.12とNo.13で扱います。
1日8時間・1週40時間が上限で、44時間の特例は分かるまで使わない。休憩は6時間超で45分・8時間超で1時間。休日は毎週1回。そして訪問介護では、命じた移動・待機・義務の報告書は、直接介護でなくても労働時間。
点検表に書くこと
○ 法定三帳簿の行(出勤簿の欄):始業・終業の時刻を記録しているか。移動・待機・報告書の時間も入っているか
○ 社労士に聞くことメモ:44時間の特例を使いたいか。登録ヘルパーを含めた人数が10人前後か。直行・直帰の扱い
問1 ヘルパーが午前の利用者宅の訪問を終え、会社の指示で次の利用者宅へ自転車で20分かけて移動しました。この20分の扱いは?
問2 利用者のキャンセルに備え、会社が「事業場で待機しておくように」と指示したヘルパーが、何も仕事をせず3時間待ちました。この3時間は?
問3 正社員4人と登録ヘルパー7人(合わせて11人)が働く訪問介護の事業場です。週の勤務は、何時間までで組みますか?
出典:e-Gov 労働基準法32条・32条の2・34条・35条・119条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/労働基準法施行規則12条の2・25条の2(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号、https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/厚生労働省「訪問介護員のための魅力ある就労環境づくり」(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kaigo/dl/roumu_manual_08.pdf)/厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/001460757.pdf)。確認日 2026-11-04。