人を雇うと、会社は次の4つの保険のことを考えます。 健康保険と厚生年金保険をまとめて「社会保険」、雇用保険と労災保険をまとめて「労働保険」と呼ぶことが多いです。この講座の点検表では、4つをまとめて「社会保険」と書きます。区別が必要な時は、保険の名前をそのまま書きます。
| 保険 | 何の保険か | 手続きの窓口 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 病気やけがで病院にかかる時の保険 | 年金事務所(または事務センター) |
| 厚生年金保険 | 老後や障害の時の年金の保険 | 年金事務所(または事務センター) |
| 雇用保険 | 仕事を失った時などの保険 | ハローワーク(公共職業安定所) |
| 労災保険 | 仕事中や通勤中のけがや病気の保険 | 労働基準監督署(労基署)など |
保険に加入している人のことを、被保険者といいます。 会社が「この人を被保険者にします」と役所に届ける書類が、資格取得届です。
判定でよく出てくる言葉が、所定労働時間です。
所定労働時間とは、契約や就業規則で「この時間働く」と決めた時間のことです。 実際に働いた時間(残業を含む)ではありません。たとえば契約で週20時間と決めていれば、ある週に25時間働いても、所定労働時間は20時間のままです。
加入の判定は、実際の時間ではなく、この所定労働時間で行います。 訪問介護では、勤務表で働く時間が毎月決まる人がいます。そういう人の判定は、迷いやすいので注意してください。
加入の入口は2段あります。
1段目:フルタイムの4分の3以上 1週間の所定労働時間と、1か月の所定労働日数が、同じ会社でフルタイムで働く労働者の4分の3以上なら、加入します(日本年金機構)。
2段目:4分の3に満たない短時間の人 次の4つが全部そろえば、加入の対象になります(厚生労働省・日本年金機構)。
賃金の要件(月額8.8万円以上)は、2026年10月1日に撤廃されました。 以前は、これに加えて「月額賃金が8.8万円以上」という条件がありました。今はこの条件がなくなっています。
4つ目の企業規模の要件は、段階的に小さくなります。
| 時期 | 対象になる企業規模 |
|---|---|
| 2024年10月〜2027年9月(今) | 51人以上 |
| 2027年10月〜 | 36人以上 |
| 2029年10月〜 | 21人以上 |
| 2032年10月〜 | 11人以上 |
| 2035年10月〜 | 10人以下の企業も対象(企業規模の要件は撤廃) |
人数の数え方は、フルタイムの人と、週の所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の人を数えます。その状態が1年のうち6か月以上見込まれる時に、対象になります。 自社の人数が要件にぎりぎりの時は、分かるまでは、対象になる前提で書類の準備を始めておきます。そのうえで、年金事務所に確認するのが確実です。
今の時点で、従業員が50人以下の会社なら、短時間の人は「企業規模の要件」で対象になりません。 ただし、上の表のとおり、数年おきに対象が広がっていきます。
雇用保険は、次の2つのどちらかに当たる人は加入しません(雇用保険法6条。条文は法律の1つ1つの条のことです)。
つまり、週20時間以上で、31日以上雇う見込みがあれば、加入します。
この条文は変わります。 2028年10月1日から、1号が「週の所定労働時間が10時間未満」に変わり、週10時間以上の人も加入する形になります。厚生労働省の資料でも、施行日(その決まりが使われ始める日)は令和10年10月1日です。
労災保険法3条1項は、「労働者を使用する事業を適用事業とする」と定めています。 適用の単位は事業で、労働者を使っていれば対象になります。労働者かどうかは、No.02で学んだとおり、正社員でも登録ヘルパーでも、実態で決まります。
この条文には、「被保険者」という言葉は出てきません(e-Gov=国の法令検索サイトの原文で確認)。 健康保険や雇用保険のように、1人ずつ「入るかどうか」を判定する作りではありません。
ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。 分かるまでの安全な扱いは、入社した人を、労災保険の対象の労働者として扱うことです。入社の日の確認項目に「会社の労災保険の加入が済んでいるか」を入れておけば、仕事中のけがが起きても慌てません。 そのうえで、自社の労災保険の加入状況と、入社時に出す届があるかどうかは、労基署か社労士に確認してください。
入社の日に、会社がやる主な手続きは、次の表のとおりです。 期限は、健康保険・厚生年金保険が入社日から5日以内、雇用保険が雇った日の属する月の翌月10日までです。
| 手続き | 期限 | 出す先 | 本人から受け取る物 |
|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険の資格取得届 | 事実発生(入社日)から5日以内 | 年金事務所か事務センター。電子申請もできる | 基礎年金番号通知書(年金手帳)またはマイナンバーカード(提示のみ) |
| 雇用保険の資格取得届 | 雇った日の属する月の翌月10日まで | ハローワーク(年金事務所経由でも可) | 以前に雇用保険に入っていた人は、被保険者番号が分かる物 |
| 労災保険 | 入社日の確認項目に入れる(第1章③) | 労基署など | — |
| 労働条件通知書の交付 | 契約を結ぶ時 | 本人に渡す | — |
| 雇入れ時の健康診断 | 常時使用する労働者(いつも雇っている労働者)を雇い入れる時 | 会社が実施 | 3か月以内に受けた健診の結果があれば提出してもらう |
社会保険の5日以内は、いちばん短い期限です。 雇用保険の翌月10日までは、1か月以上の余裕があるように見えますが、うっかり忘れやすいので、同じ日に一緒に準備します。
雇入れ時の健康診断は、労働安全衛生規則(安衛則。労働安全衛生法の細かい部分を決める、厚生労働省の命令)43条に基づきます。 3か月以内に受けた健診の結果を出してもらえば、相当する項目は省けます。パートが対象になるかの線引きは迷いやすいので、分かるまでは、受けてもらう側に倒します。そのうえで、労基署か社労士に確認します(健康管理はNo.11で扱います)。
そのほか、入社した人は労働者名簿に載せます(No.12で扱います)。 就業規則がある場合は、労働者に周知します(No.10で扱います)。
入社日を基準に、時系列にしてみます。
入社の2週間前 本人に必要書類を依頼(基礎年金番号が分かる物・雇用保険の被保険者番号)
労働条件通知書を渡す(契約を結ぶ時までに)
入社日 雇入れ時の健康診断の結果を受け取る/労働者名簿に載せる
入社日から5日以内 健康保険・厚生年金保険の資格取得届を出す
翌月10日まで 雇用保険の資格取得届を出す
5日以内は、入社してから集め始めると遅れやすい期限です。 期限の日付は日本年金機構の案内で確かめて、入社前に書類を集めておくと、遅れません。
届出は、電子申請でも出せます。 事務の流れを決めておけば、毎回同じ手順で済みます。
次の3つを決めておくと、毎回迷いません。
手順表は、AIに頼んで作れます。 頼み方の例です。
訪問介護の会社で、新しい労働者が入社する時の手続きを、期限つきのチェックリストにしてください。健康保険・厚生年金保険の資格取得届(入社日から5日以内)、雇用保険の資格取得届(入社日の属する月の翌月10日まで)、労働条件通知書の交付、雇入れ時の健康診断を入れてください。入社日を1日目として、日付が計算できる表にしてください。
AIが作った期限は、必ず表の期限と照らして確認してください。 実際の入社日や氏名は、AIに渡さず、自社で入れてください。
辞める時にも、同じように期限があります(No.14で扱います)。 健康保険・厚生年金保険の資格喪失届は5日以内、雇用保険の資格喪失届は、辞めた日の翌日から10日以内です。
○ よくある勘違い①:週20時間以上の人は、必ず健康保険・厚生年金に入る → 短時間の人は、企業規模の要件も満たす必要がある。今は51人以上の企業が対象
○ よくある勘違い②:雇用保険は、週20時間以上の人しか入れない → 今は20時間未満は対象外だが、2028年10月1日から週10時間以上に変わる
○ よくある勘違い③:実際に20時間以上働いたので、加入の対象になる → 判定は、実際の時間ではなく所定労働時間で行う
○ 将来の変更:2027年10月に企業規模の要件が36人以上、2028年10月に雇用保険が週10時間以上、2029年10月に21人以上になる
○ 関係する単元:No.02(労働者の範囲)/No.04(通知書)/No.11(健康診断)/No.12(労働者名簿)/No.14(退職の手続き)
社会保険は、フルタイムの4分の3以上か、短時間4条件がそろえば加入。期限は、健康保険・厚生年金が入社日から5日以内、雇用保険が翌月10日まで。判定は所定労働時間で行う。
点検表に書くこと
○ 社会保険の行:労働者ごとの所定労働時間と、入っている保険(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災)の一覧があるか。入社時の届出の期限を守る手順があるか
○ 社労士に聞くことメモ:自社の人数が、企業規模の要件の境目にないか
問1 労働者が入社した時の、健康保険・厚生年金保険の資格取得届の期限は?
問2 4月15日に入社した労働者の、雇用保険の資格取得届は、いつまでに出しますか?
問3 現在(2026年11月)、週の所定労働時間が15時間で、1年以上雇う予定のヘルパーは、雇用保険に加入しますか?
問4 次のうち、短時間の労働者が健康保険・厚生年金保険の対象になる条件として、正しいものは?
出典:日本年金機構「従業員を採用したとき(健康保険・厚生年金保険)」(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150422.html)/日本年金機構「2026年10月からの短時間労働者の適用拡大」(https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/jigyosho/2026/202610/100104.html)/厚生労働省「社会保険の適用拡大 特設サイト」(https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/seido/tanjikan/)/雇用保険法(https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116)6条(現行版と2028年10月1日施行版)/雇用保険法施行規則(https://laws.e-gov.go.jp/law/350M50002000003)6条・7条/労働者災害補償保険法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000050)3条/労働安全衛生規則(https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032)43条/厚生労働省 雇用保険事務手続きの手引き(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001738607.pdf)。確認日 2026-11-04。