労働条件通知書は、会社が労働者に、働く条件を書面で伝える書類です。 労働基準法(労基法)15条が、契約を結ぶ時に労働条件を明示することを義務にしています。15条とは、法律の1つ1つの条(条文)の番号のことです。会社が出す側で、本人の署名は求められていません。
雇用契約書は、会社と労働者が、条件に合意したことを書面で残す書類です。 労働契約法(労契法)は、労働契約の内容を、できる限り書面で確認するものとしています(4条2項)。こちらは「できる限り」で、義務の書き方ではありません。
| 労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
|---|---|---|
| 役割 | 会社が条件を伝える | 双方が合意したことを残す |
| 根拠 | 労基法15条 | 労契法4条2項 |
| 署名 | 求められない | 双方が署名・押印するのが一般的 |
| 義務かどうか | 会社の義務(違反すると罰則) | できる限り書面で確認する |
この2つは、署名欄をつけて1枚で兼ねることもできます。 その場合も、通知書として必要な項目が全部入っていることが条件です。
契約の期間が決まっている契約を、有期労働契約といいます。 期間が決まっていない契約は、無期労働契約です。正社員は無期、登録ヘルパーやパートは有期のことが多いです。
有期契約には、更新の決まりや、5年を超えた時の無期への切り替え(無期転換)があります。 これらは第3章で扱います。
明示する事項は、労働基準法施行規則(労基則。労基法の細かい部分を決める、厚生労働省の命令)5条1項に並んでいます。 次の表のとおり、必ず書面で出す事項と、会社が定めをした場合だけ明示する事項に分かれます。
| 区分 | 事項 |
|---|---|
| 必ず書面で出す | 契約期間 |
| 有期契約を更新する基準(通算契約期間や更新回数の上限があれば、それも含む) | |
| 就業場所と、従事する業務(それぞれの変更の範囲を含む) | |
| 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日、休暇、交替制 | |
| 賃金の決定・計算・支払の方法、締切日と支払日 | |
| 退職に関すること(解雇の事由を含む) | |
| 明示は必要(書面でなくてもよい) | 昇給に関する事項 |
| 定めがあれば明示 | 退職手当、賞与、食費などの負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰と制裁、休職 |
所定労働時間とは、契約や就業規則で「この時間働く」と決めた時間のことです。
必ず書面で出すのは、契約期間・更新の基準・就業場所と業務・時間と休み・賃金・退職に関することです。 昇給は、明示は必要ですが、書面で出さなくても構いません。 ただ、実務では、通知書に一緒に書いてしまう方が分かりやすいです。
2024年4月1日から、通知書に次の項目が加わりました。厚生労働省のリーフレットで確かめた内容です。
更新上限を、あとから新しく設ける時や短くする時は、あらかじめ理由を説明することが必要です。 無期転換した後の条件を決める時は、正社員などとのバランスを考えた事項を、有期契約の人に説明するよう努めます。
求人票に書いた「変更の範囲」と更新上限が、通知書にも同じように書かれているかを、見比べておいてください。
出し方は、書面の交付が原則です。 本人が希望すれば、ファクシミリや電子メールなどでも出せます。ただし、本人がその記録を出力して書面にできる方法に限ります(労基則5条4項)。
もう1つ大事なのが、通知書に書いた条件と、実際の条件が違っていた場合です。 労基法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違するときは、労働者は即時に労働契約を解除できる、と定めています。就業のために引っ越した人が、解除から14日以内に帰郷する時は、会社が旅費を負担します(同条3項)。
労基則5条2項も、明示する労働条件を事実と異なるものにしてはいけない、としています。 通知書は、実際に守れる内容だけを書くのが基本です。
15条1項に違反すると、30万円以下の罰金の対象です(労基法120条1号)。
訪問介護では、登録ヘルパー(通達でいう「非定型的パートタイムヘルパー」)の勤務が、毎月の勤務表で決まります。 そのため、「いつ働くか」をどう通知書に書くかが悩みどころです。
通達(厚生労働省が労基署に出す、法律の読み方の指示)の「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号)は、次のように整理しています。
つまり、毎月の勤務時間そのものを通知書に書き切る必要はありません。 ただし、勤務の種類ごとの考え方(例:身体介護の訪問、夜間の訪問、サービス提供責任者としての業務)と、就業規則のどの条項に当たるかは、書面で示す必要があります。
就業規則の作り方は、No.10で扱います。 就業規則がまだない会社は、通知書に「勤務の種類ごとの考え方」を書いて、そこに勤務表を添える形にします。
試用期間とは、本採用の前に、適性を見るために設ける期間のことです。 試用期間の長さを決める条文は、労基法にも労契法にもありません(e-Gov=国の法令検索サイトの原文で確認)。長さは、会社が決めます。
求人で明示する事項には、試用期間があります(No.03)。 通知書にも、試用期間の有無と長さ、その間の条件を書いて、本人に伝えておくのが基本です。
試用期間中なら、自由に辞めさせられると思われがちです。 労基法21条4号は、試用期間中の人に解雇の予告が要らないのは、最初の14日までと定めています。14日を超えれば、予告が必要になります(No.14で扱います)。
契約書や通知書に、違約金・前借金の相殺・強制貯金を書いても、法律で禁止されていて、無効です。 具体的には、次の3つです。
| 禁止されていること | 条文 | 訪問介護の例 |
|---|---|---|
| 違約金や、損害賠償の額をあらかじめ決める契約 | 労基法16条 | 「途中で辞めたら違約金○円」「物を壊したら一律○円を弁償」 |
| 前借金と賃金を相殺すること | 労基法17条 | 「会社が貸した生活費を、毎月の給料から差し引く」 |
| 貯蓄の契約や、貯蓄金を管理する契約をさせること | 労基法18条1項 | 「給料から積立を天引きして会社が預かる」 |
16条が禁止しているのは、あらかじめ金額を決めておくことです。 実際に生じた損害をどう扱うかは別の話です。分かるまでは、損害があっても給料からは引きません(賃金は全額を払うのが原則です。No.09で扱います)。そのうえで、請求の仕方は専門家に相談してください。
16条・17条・18条1項に違反すると、6か月以下の拘禁刑(刑務所に入れる刑。以前の「懲役」にあたります)か30万円以下の罰金の対象です(労基法119条1号)。 法律の基準に達しない契約は無効になる、という13条の考え方は、No.01で扱いました。
有期契約には、次の4つの決まりがあります。
「契約期間が終われば自動的に終わる」と思っていると、後から問題になることがあります。 更新するかどうかを決める基準を、通知書に書いておくことが大切です。
作る手順は、次のとおりです。
下書きは、AIに頼めば数分でできます。 頼み方の例です。
厚生労働省のモデル労働条件通知書(短時間労働者用)の項目に沿って、訪問介護の登録ヘルパー向けの通知書の下書きを作ってください。金額・日付・事業所名は空欄にして、勤務表で働く日が決まる点も書いてください。
AIが作った下書きは、そのまま使わず、第1章①の表の項目が全部入っているかを必ず確認してください。 実際の賃金額や日付は、自社の情報を入れます。
○ よくある勘違い①:雇用契約書があれば、労働条件通知書は要らない → 通知書は会社の義務。契約書に必要な項目が全部入っていれば、1枚で兼ねることはできる
○ よくある勘違い②:登録ヘルパーは勤務表で決まるので、通知書に書くことがない → 契約期間と更新の基準、勤務の種類ごとの考え方などは書面で示す
○ よくある勘違い③:契約書に「途中退職は違約金」と書いたが、本人は署名したので有効 → 違約金や損害賠償額の予定は、書いても無効(労基法16条)
○ 関係する単元:No.01(法律の強さの順番)/No.03(求人票)/No.10(就業規則)/No.14(解雇)
通知書は会社が書面で出す義務の書類で、契約期間・更新基準・就業場所と業務(変更の範囲)・時間・賃金・退職は必ず書面。違約金・前借金の相殺・強制貯金は、書いても無効。
点検表に書くこと
○ 労働条件通知書の行:区分ごと(正社員・登録ヘルパーなど)に通知書があるか。必ず書面で出す事項が全部入っているか。無効な条項(違約金など)がないか
○ 有期契約の人がいる場合:更新の基準と、通算5年を超える人がいるかも、この行に書く
問1 労働条件通知書で、必ず書面で出す事項に当たらないのは?
問2 通知書に「月給のほかに○○手当を支給する」と書きましたが、実際には支給していませんでした。労働者はどうできますか?
問3 契約書に「途中で辞めたら違約金10万円を払う」と書き、本人も署名しました。この条項の扱いは?
問4 登録ヘルパーのDさんは、1年更新の有期契約で、同じ会社と通算5年を超えて更新されました。Dさんが申し込んだ場合は?
出典:労働基準法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)14条・15条・16条・17条・18条・21条・119条・120条/労働基準法施行規則(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)5条/労働契約法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)4条・17条・18条・19条/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」平成16年8月27日基発第0827001号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/厚生労働省リーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001298245.pdf)/滋賀労働局「労働条件通知書モデル様式」(https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/youshiki_newroudoutuuti.html)/有期契約労働者の無期転換サイト(https://muki.mhlw.go.jp/rule.html)。確認日 2026-11-04。労基法は、施行日(決まりが使われ始めた日)が2026年7月17日の版で確認。