小さな会社の労務講座(採用から退職まで・実務寄り)

区分5 法定三帳簿と書類の管理(実務)★★★

No.12 法定三帳簿の中身(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)

労働者名簿・賃金台帳・出勤簿という、全ての会社が持つ3つの帳簿の中身を、書く項目のチェック表と記入の手順まで見る単元です。毎月の給与を払うたびに使うので、実務で最も出番が多い書類です。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 労働者名簿
  3. 第2章 賃金台帳
  4. 第3章 出勤簿(労働時間の記録)
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 法定三帳簿 :法律やガイドラインで、作って保存するよう決められた3つの帳簿

労働基準法(労基法)と厚生労働省のガイドラインが、会社に3つの帳簿を作って保存することを求めています。 この講座では、次の3つを「法定三帳簿」と呼びます。

帳簿 一言で 根拠
労働者名簿 労働者の「人」の記録(誰が、いつ入り、いつ辞めたか) 労基法107条・労基則53条
賃金台帳 労働者ごとの「お金と時間」の記録 労基法108条・労基則54条
出勤簿 始業・終業の時刻、つまり「いつ働いたか」の記録 労働時間の適正な把握のためのガイドライン

労基則は、労働基準法施行規則の略です。 厚生労働省が出す、労基法の細かい決まり(省令)です。

出勤簿だけ、根拠が法律の条文(法律を番号で分けた1つ1つの決まり)ではなく、ガイドライン(厚生労働省が示す指針)です。 ガイドラインは法律そのものではありませんが、会社に始業・終業時刻の記録を求めていて、その記録は、労基法109条で保存が求められる書類として扱われます(保存はNo.13で扱います)。

② 似た書類との違い

三帳簿と混ざりやすい書類が3つあります。

書類 三帳簿との関係
年次有給休暇管理簿 三帳簿とは別の、法定の帳簿(労基則24条の7)。有給をとらせた人ごとに、時季・日数・基準日を書く。No.08で扱う
労働条件通知書 入社の時に本人に渡す書類(No.04)。会社の控えは保存の対象
業務報告書・訪問記録 ヘルパーが書く記録。労働時間を把握する材料になる(第3章)

整理すると、会社が作る帳簿は次の4種類です。

③ 登録ヘルパーも全員の分を作る 必ず覚える

三帳簿は、事業場(労基法で数える、場所ごとの職場)ごとに、労働者ごとに作ります。 正社員だけでなく、パートも登録ヘルパーも、雇用契約を結んで働く労働者なら全員の分が要ります。登録ヘルパーが労働者に当たるかどうかの考え方は、No.02で扱っています。

例外は、日々雇い入れる人です。労働者名簿は日々雇い入れる人は作らなくてよく、賃金台帳は様式が別になります(労基則55条)。 ただし、日々雇い入れる人でも1か月を超えて引き続き使うなら、通常の人と同じ扱いに戻ります(同条)。

訪問介護の通達(厚生労働省が労基署に出した指示。平成16年8月27日 基発第0827001号)にも、訪問介護事業では事業場ごとに労働者名簿と賃金台帳を作ることが、明記されています。

第1章 労働者名簿

① 書く項目 さらっと

労働者名簿に書く項目は、法律と労基則53条を合わせると、次のとおりです。

労働者名簿の記載事項チェック表

✓ 項目 メモ
☐ 氏名 労基法107条
☐ 生年月日 労基法107条
☐ 履歴 労基法107条(前職など。入社時の履歴書で足りる形にしておく)
☐ 性別 労基則53条
☐ 住所 労基則53条
☐ 従事する業務の種類 常時(ふだんから)30人未満なら不要(労基則53条2項)。10人弱の会社は書かなくてもよい
☐ 雇い入れた年月日 労基則53条
☐ 退職の年月日と事由 解雇の場合は理由まで書く
☐ 死亡の年月日と原因 該当した時だけ

様式は、労基則の様式第19号がひな形です。 法律は様式を強制していないので、必要な項目がそろっていれば、自社の形式でも構いません。労基則の様式第19号(労働者名簿)を見ながら項目を写すのが、確実です。

② 直す時のルール さらっと

住所や氏名が変わったら、遅滞なく(ずるずる遅らせず、すぐに)訂正します(労基法107条2項)。 退職した時は、退職の年月日と事由を書き加えます。解雇の場合は、解雇の理由まで書きます。

「毎年の更新作業」にしてしまうと、最大1年ずれてしまいます。 入社時に作る、変更があった時に直す、退職時に仕上げる、という3つの「その時」に結びつけるのが、実務では間違いが少ない形です。

第2章 賃金台帳

① 書く項目 必ず覚える

賃金台帳は、賃金を払うたびに、遅滞なく、労働者ごとに書きます(労基法108条)。

賃金台帳の記載事項チェック表

✓ 項目 メモ
☐ 氏名
☐ 性別
☐ 賃金計算期間 例:10月1日〜10月31日
☐ 労働日数 休日出勤も含めた働いた日数
☐ 労働時間数 実際に働いた時間の合計(第3章)
☐ 時間外・休日・深夜の労働時間数 割増賃金の根拠になる(No.07)
☐ 基本給・手当など種類ごとの額 手当は種類ごとに分けて書く
☐ 控除した額 社会保険料・税など、引いた物(No.09)

管理監督者(労働時間の決まりが適用されない、経営者と一体の立場の人)など労基法41条に当たる労働者は、労働時間数と、時間外・休日・深夜の時間数を書かなくてよい扱いです(労基則54条5項)。 ただし、小さな会社で管理者に当たると言い切れる人は、実際には多くありません。判断はNo.01・No.06の考え方で慎重にしてください。

② 支払うたびに書く さらっと

法律の言葉は「賃金支払の都度遅滞なく」です。遅滞なくは、ずるずる遅らせず、すぐに、という意味です。 実務では、給与を払ったその日のうちに、遅くとも近い日に書くようにします。

賃金計算の中身(給与計算ソフトの使い方・年末調整など)は、この講座では扱いません。 上の8項目のうち、給与計算ソフトが計算して出すことが多いのは、賃金計算期間と、基本給・手当ごとの額、控除した額です。 会社の側で確定させて入れる必要があるのは、労働日数と労働時間数、時間外・休日・深夜の時間数です。これらは、出勤簿(第3章)を集計した結果を、ソフトに入力する形になります。 ここからは実務の目安です。自社のソフトが上の8項目を全て出せるかを、一度確かめてください。出せない項目があれば、台帳に手書きか表計算で足します。

③ 書かないと、どうなるか

労基法120条は、107〜109条の違反に30万円以下の罰金を定めています。 厚生労働省の資料は、賃金台帳に労働時間数を記入していない場合や、わざと違う時間数を書いた場合も、同じく罰金の対象だと説明しています。

第3章 出勤簿(労働時間の記録)

① 法律に様式はないが、記録は必要 さらっと

出勤簿やタイムカードという形は、法律で決まっていません。 決まっているのは、会社が労働者ごとに、働いた日の始業時刻と終業時刻を確認して、記録することです。

厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日策定)は、確認と記録の原則的な方法を、次の2つとしています。

② 自己申告にする時の条件 必ず覚える

訪問介護では、ヘルパーが直行直帰をします。 事務所にタイムカードを置いても、訪問の開始と終了は押せません。実際には、本人が申告する形にならざるを得ない場面が多いと思います。

ガイドラインは、自己申告にする時に会社が講じることを、次のように定めています。

最後の項目は、見落としやすい所です。 「残業は月に10時間までしか書かないでね」という申し合わせは、これに当たります。

③ 訪問介護の通達が加える注意 さらっと

訪問介護の通達は、ヘルパーが作る業務報告書で労働時間を把握している場合、会社は次のことをするよう求めています。

労働時間に何が入るかは、No.06で扱っています。通達の要点だけ書くと、次の物が労働時間に当たる場合があります。

訪問の「サービス提供時間」だけを記録すると、これらが全て抜けてしまいます。

ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。自社の出勤簿を作る時の手順の例を、1つ示します。 ① 訪問ごとに、出発・到着・終了の時刻をヘルパー本人が記録する ② 事務所で、介護の記録(訪問の開始・終了の時刻)と突き合わせる ③ ずれが大きい日は、本人に聞いて補正し、補正した旨を残す ④ 事務所での業務・研修・待機の時間を、別の列で足す

○ よくある勘違い 「出勤簿は法律で様式が決まっている」→ 様式は決まっていません。始業・終業の時刻を、確認して記録していることが大切です
○ よくある勘違い 「登録ヘルパーは名簿がなくてよい」→ 雇用契約を結んで働く労働者なら、全員の分が要ります
○ よくある勘違い 「賃金台帳に書く労働時間は、訪問した時間だけでよい」→ 労働時間に当たる移動や待機があれば、それも含めた通算の時間で記録します(通達)
○ 関係する単元:No.02(登録ヘルパーは労働者か)/No.06(何が労働時間か)/No.07(割増賃金)/No.08(年休管理簿)/No.13(保存と毎月の回し方)

三帳簿は、労働者名簿(人)・賃金台帳(お金と時間)・出勤簿(いつ働いたか)。全員の分を、チェック表の項目がそろう形で持つ。労働時間は訪問時間だけでなく、通常の移動などを含めて記録する。

点検表に書くこと
「法定三帳簿」の行に、帳簿ごと(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)に、次を書きます。
・あるか。登録ヘルパーを含む全員の分があるか
・第1章・第2章のチェック表の項目がそろっているか。出勤簿に、移動などを含めた労働時間が記録されているか

確認問題

問1 常時30人未満の労働者を使っている会社で、雇用契約を結んでいる登録ヘルパーのAさんについて、労働者名簿に書く必要があるのは?

問2 賃金台帳の「労働時間数」について、正しいのは?

問3 自己申告で労働時間を把握している会社が、してはいけないことは?

出典:e-Gov(国が法令の原文を公開しているサイト) 労基法107〜109・120条、労基則53・54・55・55条の2・24条の7(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 、https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」リーフレット(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf )と掲載ページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html)/厚生労働省「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日基発第0827001号、https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)。確認日 2026-11-04。