労務の勉強というと、2つのやり方が思い浮かぶと思います。 法律を片っ端から覚えるか、難しいことは社労士(社会保険労務士。労務や社会保険の手続きを仕事にしている国家資格を持つ人)に全部任せるか、です。
でも、小さな会社の経営者に要るのは、そのどちらでもありません。 自社の場面で「これは法律的に大丈夫か」を、条文(法律の1つ1つの条)と厚生労働省の資料で確かめられること。 そして社労士に頼む時に、「何を、どこまで」頼むのかを自分の言葉で言えること。 この講座が目指すのは、そこです。
労務の話は、こんな場面で手が止まりやすいと思います。
どれも答えは、法律のどこかに書いてあるか、厚生労働省が資料を出しているか、のどちらかです。 つまり手が止まる原因は、知識が足りないことよりも、「どこを見れば答えが出るか」を知らないことにあります。
もう1つ、法律は変わります。 2026年10月1日に施行(決まりが実際に使われ始めること)された改正も、複数あります。カスタマーハラスメント(お客さんや利用者からの度を超えた言動)への対策が会社の義務になったことや、社会保険の加入に関する賃金の要件がなくなったことなどです。 覚えた数字はいつか古くなりますが、条文の引き方は古くなりません。 だからこの講座は、数字を覚えるより「引き方」を身につけることを真ん中に置いています。
小さな会社の労務を、条文と厚生労働省の資料を引いて自分で判断し、社労士に何を頼むかを言えること。
満点(細部まで全部知ること)は目指しません。 合格の目安は、迷った時に「どの条文を開くか」「どの資料を見るか」が分かっていることです。
課題は1つです。 自社の労務点検表を1枚作り、直す所を3つ挙げて、直す手順と期限まで書きます。
点検表は、次の5行です。
○ 法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)… 会社に必ず置く3つの帳簿です。No.12・13で扱います
○ 就業規則 … 会社の職場のルールを書いた規程です。No.10で扱います
○ 36協定 … 残業をさせるために、会社が労働者の代表と結ぶ約束です。No.07で扱います
○ 労働条件通知書 … 働く条件を本人に書面で伝える書類です。No.04で扱います
○ 社会保険 … 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の加入です。No.05で扱います
5行のほかに、表の下に「社労士に聞くことメモ」の欄を置きます。 5行に当てはまらない話(たとえば登録ヘルパーが労働者かどうか)は、この欄に書きます。
読んで分かった気になるだけだと、課題はできません。 そこで、単元の終わりに「点検表に書くこと」の枠を置いて、その単元で埋める行を示します。やり方は、次の「学び方」で説明します。
労務の世界は広く、全部を扱うと終わりません。 そこで、小さな会社で毎日のように使うかどうかと、あなたが判断できるようになる必要があるかどうかで仕分けて、次の6つは外しました。
外して不安になるかもしれませんが、必要になった時は、そこだけ調べるか専門家に頼めば足ります。 どこまで自分で判断して、どこから頼むかの線引きは、最後のNo.15で整理します。
講座は、会社が人を雇ってから辞めるまでの順に、6つの区分で並べています。 トップページの各区分には「攻め方」が付いているので、ここでは、区分ごとにどんな気持ちで読むかだけ書いておきます。
他の全部の根っこになる区分です。 法律・就業規則・契約の強さの順番を1つ覚えて、労働者かどうかの見分け方を知り、条文を1本引いてみます。やさしい内容ですが、ここがあいまいだと後の区分が全部ふわっとします。
求人を出す日から入社の日までです。 書類と期限が多く、特に社会保険の届出は期限が短いので、表にして覚えます。求人票・通知書・入社手続きを、自分で作って出せるようになるのが目標です。
シフトを組む・残業させる・有給を取らせる・給料を払う、という毎日の場面です。 数字が一番多く、違反も一番起きやすい区分で、労基署(労働基準監督署。法律が守られているかを見る国の役所)が一番見る所でもあります。自社のシフト1週間分に当てはめながら、時間をかけて読んでください。
就業規則を作る・変える、ハラスメントを防ぐ、という会社の内側のルールです。 10人以上で作成と届出の義務があること、変える時は手順と「不利益変更」に注意すること、ハラスメント防止は会社の義務であること。この3つが柱です。
労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の三帳簿と、主な書類の保存です。 難しい所はなく、中身より回し方が大事な区分です。自社の三帳簿が今どこにあるかを確かめて、毎月の更新を日課にできれば十分です。
退職の手続きと、解雇・労基署の調査への備えです。 解雇は法律より判例(過去の裁判の積み重ね)のハードルが高く、自分で全部やろうとしない区分です。専門家に頼む線引きまで含めて、ゴールに入っています。
この講座では、呼び方を次のとおり揃えます。
条文の数字や施行日は、すべて2026年11月4日時点で、e-Gov(国の法令検索サイト)と厚生労働省の公式ページで確かめた内容です。 単元の終わりに、使った資料のURLを「出典」として付けています。気になったら、元の資料を開いて確かめてください。
出典:この講座の内容は、各単元の末尾に記した条文(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/)と厚生労働省の公式資料に基づく。確認日 2026-11-04。2026年10月1日施行の改正は、カスタマーハラスメント対策=労働施策総合推進法(https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132)33条・34条、社会保険の賃金要件の撤廃=日本年金機構(https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/jigyosho/2026/202610/100104.html)。